さわさわと葉のこすれる音で瞼を開けると、思わず目がくらんだ。 つい先程まで暗闇の中にいたのだから余計眩しく思うのも無理はない。 「…此処、どこ?」 ようやく慣れた視界を見渡し、首をかしげる。鬱蒼とした木々が周りを囲み、遠くの方で水の流れる音が聞こえた。今いる場所も、山道にほど近い小さな空き地らしい。 軽く眉を寄せながら、手近な樹の上に乗り移る。そこではようやく息をついた。 「何なのかなぁ、本当に。…服も変わってるし、あの女の人の声も、」 分らないことだらけだ。そう思いもう一度ため息をひとつ。 制服だったそれは、白のノースリーブのハイネック。その上に薄紫色の裾の短い単衣をベルトで留めて。まるでどこかの忍びのキャラのようだと、とあるゲームを思い出してしまった。 それはともかく。 「……あのヒト、何だったんだろう」 鈴の振るような綺麗な声だった。とても、哀しんでいる声だった。 こんな場所に自分を連れてきたのも、おそらく彼女の仕業だ。…………実の所、驚きの連続で色々と思考がマヒしてるのが分かる。 だって此処どこだ。こんな場所に記憶はないしどうやってここに置いて行かれたのかも分らない。人気もないし。なんか野生っぽい生物はいるみたいだが、わざわざ行きたくないし。 ―――詰まる所、はかなり混乱していた。 「……………」 ふと、何かがこちらへ近づく気配がし、一つ目を瞬かせて視線を木々の奥に飛ばす。少しだけ気配をひそめて見守っていると、甲高い鉄の音と複数の人声。そして奧から獣のような姿をした生物が空き地へとなだれ込んできた。 赤々と燃える球炎が獣に直撃し、ぢゅ、と肉と地の焼ける音がした。樹が意思をもっていくつもある根を操り攻撃し、何人かは軌道を避け、または斧や剣を振りおろして断ち切ってゆく。 ガキィンッ 剣がうなり、異形の生物が咆哮した。 「…………………。」 そんな様子をぼんやりと流依は眺めていた。 幸というか不幸というか…戦っている彼らはの存在に気づかれていない。いや、一人だけこちらを一瞬仰いだ人がいた。けれど場所までは分らなかったらしい。すぐ戦いに意識を向けていた。 (…まぁ、普通は樹の上にいるとは思わないもんね?) それにしても…と流依は小さく溜息をつく。 (まさかテイルズの世界に来てるとは…) その証拠に、木の下では金髪をなびかせながら斬りかかるスタン達がいる。 弟と集めたゲームの中でも特に好きなゲームだった。それはいいのだが、 (何でこんなことになったのかなぁ……?そりゃデスティニーは好きだけど。好きだけど…!) 嬉しいけど微妙な気分とはこういうことを言うのだと思う。 (……スタン達は4人。それで、ここは森の中。………ということは、神殿に行く途中なのかな?) 戦いの状況をみると、後少しで戦闘が終わりそうだ。彼らとは会わないほうがいいのかなぁ・・と考えていると、倒した内の一匹が微かに動いた。ちょうどスタンの真後ろ。 彼らはまだ気づいていない。気づけば体が動き、腰に差してあった短刀を思いっきり投げていた。 ドス、と鈍い音と掠れた断末魔を残してそれは息絶える。驚いて振り向く面々。 (……………お、思わず投げちゃった、けど…どーしよう) 自分から気付かせてしまうなんて…。少しだけ自己嫌悪していれば、鋭い声が飛んできた。 「! 誰だ、出てこい」 仕方がないと覚悟を決めて、小さく息を吐きだした。 がさり、と枝を揺らしながら地面に降り立ったは、ゆっくりと彼らを見回す。が、チャキリ、と首元の冷たい感触に、困ったように目の前にいる同年代の少年―リオンに視線を移した。 「貴様、何者だ」 「…ただの通りすがり、かな?」 そう返せば余計に睨まれた。 「通りすがりなら、何故あんなところにいた」 「気が付いたら此処にいたんだもの。変な気配がしたから、怖くなって隠れてたの」 その言葉に、何か言おうとした彼だったが、ぐいっと押しのけて今度は女性が話しかけてきた。 「それじゃあ、この剣はアンタの?」 「あ、はい。あの、思わず投げちゃたんですけど…大丈夫でしたか?」 返してもらいながら聞き返す。あの馬鹿は平気よーと黒髪の女性ールーティが笑う。 「あと、こちらも聞きたいことがあるんだけど…いいですか? えっと…」 「あたしはルーティ。こっちが相棒のマリーで、これがスタン。んでさっきの生意気なのがリオンよ」 「私は、フィエルです。 それでなんですが。ここ、何処でしょうか」 きょとん、とルーティ達が目を丸くしてこちらを見つめる。 「…覚えていないのか?」 「気づいたら此処にいたから…。その前の事も、分らないし…」 マリーの問いに小さく頷きながら心の中で呟く。 あの場で、とっさに使った名前。あのヒトが、流依の事をそう呼んだこの名前を使わせてもらうことにする。 それに、記憶喪失というのもあながち間違いではないと思う。 (私は、この世界の事を物語以外に、ちゃんと知らないから。) 「なぁリオン。も連れていった方がいいんじゃないか?」 スタンがリオンに言うのが聞こえる。どちらにせよに拒否権はなさそうだ。大人しく成り行きを見守ることにする。 「貴様、今から何をしに行くのか分かってるのか?」 「けれどスタンの言う通りだ。此処に残していくとしても、またいつモンスターが襲ってくるかわからない」 「これで3対1ね。どうすんの?あんたは」 ルーティがリオンに詰め寄った。 「…おい、お前」 「…………え、私?」 逡巡していたかと思えば、いまだ警戒の色を映したままリオンが言った。 「足手纏いになったら、すぐに置いていく」 「えーと、はい…?」 よく分からないままに頷けば、さっさとと行くぞと歩き出してしまった。 「…これは、一緒に行ってもいいの?」 「勿論よ。旅は道連れってね」 「、これからよろしくな」 彼らの言葉に思わず笑う。 これからよろしくお願いします。そうは微笑んだ。 '10/5/25 |