さくりさくりと下草を踏み分け、モンスターを倒しながら進むと白を基調とした婉曲した建物が木々の隙間から姿を現した。 「あれは…?」 「あれがストレイライズ神殿だ」 これがそうなのか、と見上げる。微かに水が落ちる音がするのが聞こえ、そういえば裏手は滝だったっけと思い返す。 「妙だな……」 「何が?」 「静かすぎる」 神殿に着くなりリオンが言った。 そこはとても静かだった。いや、静かすぎるのだ。リオンが言う通り、生きている気配が何もない。 実際、神殿は所々崩れかかっており、血のニオイのようなものも鼻を掠める。 正直言ってあまり嗅ぎたくないというのが本音。 知らず知らず、眉をひそめた。 『みんなもう死んでいるのかもしれないな』 突如、スタン達ではない声が割って入ってきた。頭に直接響くような男性の声音。 (これ、は…。 これが、ソーディアンの声…?) が視線だけ向けると、スタンの持つ剣の柄から、淡く光が明滅しているのに気づいた。 ということは、この声がディムロスなのか。 「だからそれを確かめに来たのだろう」 リオンがそう返し、一同は神殿へと足を踏み入れた。 静謐な空気の中、皆の足音だけが反響して消えていく。辺りを見まわすも、しんと静まり返っており逆に不安を覚えてしまう。 開けた空間に辿りつき、奥の扉が音を立てたのと、がその頭上に丸い球体がいくつも並んでいるのに気づいたのはほぼ同時だった。 「な、何? 今の」 「だ、誰かそこにいるのですか?!」 どうやら声の主は扉の向こうにいるらしい。 開ける開けないの押し問答をルーティが扉の向こうの人と繰り広げている。それを聞きつつ、ねえ。とフィエルは頭上に浮かぶ球体を指し示した。 「もしかして原因って、これかな?」 『そうか…。スタン、結界が張られているぞ』 「けっかい?」 スタンの明らかに判ってない呟きにルーティが嘆息した。 「結界…ね。つまり、そのせいでこの扉が開かないってわけ?」 「そういうことになるな」 「どうすれば開くようになるの?」 「おそらく、どこかにクリスタルがあるはずだ」 それを壊せば開くはずだとリオンが続ける。 先へ進める通路は2つ。効率よくするには、二手に分かれた方がいいのだろう。戦力的にどうなるかは分からないけれど。 そうが言う前に、リオンに腕を引っ張られた。 「え、ちょっと?」 「二手に分かれたほうが早い。お前達は右側の道を行け」 そう言ってスタスタと反対側へと向かう。引っ張られているために慌てて駆け寄る。 なんであんたに指図されなきゃいけないのよ−!! 後ろからルーティが叫んでいるがリオンは無視。 どうする事もできず、がんばってーと手を振ることしかできなかった。 「……あのー、一つ聞いても?」 タンタンタンッ、とクナイを連続で投げモンスターを倒した後、アイテム等を回収しながらリオンに尋ねる。 「なんだ」 「何で私?」 バランスを考えれば、マリーの方が良かった気もするが。 「お前が一番怪しいからな」 「…まぁ、そうだろうなとは思ったけど」 それでも面と向かって言うだろうか。普通。 ほんの少しだけ傷つく。 はぁぁとため息をついてリオンの斜め後ろをついていく。 「そういえばさ、リオン達はここに何しに来たの?」 「それを聞いてどうする」 「ただの好奇心。言いたくなければそれでいいよ。私には関係ないだろうし。……ところで、もしかしてこれで全部?」 「らしいな」 先程戦闘した場所しかモンスターはいなかったらしい。あっけないねーとぼやいてたらさっさと行くぞと言われた。 「さっきの続きだけど、もう一つ聞いてもいい?」 前を歩くリオンは何も言わないが、は構わず続ける。本当はスタン達が来てからの方がいいかとも思ったが、未だ戻ってくる気配もないので後ででいいかなと思考を切り上げた。 「スタンの剣。あとリオンのやルーティの剣もかな。あれは特殊な物なの?」 「…どういう意味だ」 案の定、振り向いたリオンの表情は訝しげだ。 そのままなんだけどな。と軽く頭を傾げながら言う。さて、どんな反応をするやら。 「だって声が聞こえたから。一回だけなら気のせいだと思ったけど、マリー以外、普通にその声達と会話しているし」 徐々に驚きを表すリオンをみて、こんな表情もするんだなぁと思ってしまった。不謹慎だろうが仕方ない。 そうすれば年相応に見えるのにと思ったのは絶対に秘密だ。 『坊っちゃん!彼女にも資質があるんですか!?』 先程のディムロスよりは若い男の人の声が頭に響いた。 「…お前、聞こえるのか?」 「えーと…。今、リオンを坊っちゃん呼びした声なら聞こえたけど」 合ってる?と首を傾げれば顔をしかめられた。…何もそんな表情しなくても。 『うわぁ、本当に聞こえるんだ!僕はシャルティエ。よろしくね、』 「シャルティエ、さん?」 『シャルでいいよー』 「うん。よろしく、シャル」 点滅を繰り返す剣に視線を合わしながらほのぼのと会話していると、何故かため息をつかれた。 なに?と顔をあげれば何でもないと返される。はて、と首を傾げていたら丁度、スタン達が反対側から姿を現した為にうやむやになってしまった。 全てのクリスタルを破壊してことによって結界が解かれる。待っていたのは先程、扉越しに会話をしたアイルツという司教だった。 彼に案内され神の眼が安置されてる場所へ降りていく。 けれど、 「神の眼が、ない…」 「おいっ、これはどういう事だ」 「そんな…盗まれるだなんて!」 神の眼はすでにそこにはなく、ぽつんと隅に人型の石像が佇んでいるだけだった。 どういうことだと、皆が混乱する様をマリーと共に少し離れた場所で待つ。 「ここにはもう、神の眼というモノは無いということか?」 「じゃないのかな。あんなに大きい穴があるくらいだし。……今はあの石像が気になるけど」 高さは自分よりやや上くらい。おそらく彼女なのだろうなと思いながら、アイルツ司教が名を呼びながらパマシーアボトルを使うのを見守った。 意識を取り戻した直後はぼんやりとしていたフィリアだったが、は、と顔をあげて目の前のアイルツにしがみついた。 「フィリア!」 「た、大変なんですっ!でもまさか大司祭様に限ってそんな…!」 そんな彼女を落ちつかせて話を聞いたところ、大司祭だったグレバムという男が神の眼を持ち出したのだという。フィリアはその場面を目撃してしまったため、石化させられていたのだという。 「ようするに、神の眼を取り返さなきゃならないってことだよな」 『そうだ。神の眼はこの世界を滅ぼしかねないレンズだ』 「だがこれで、自由になれるのはまだ当分先になりそうだな」 「はぁ、仕方ないわね。乗り掛かった船だもん」 あの…。とフィリアが声を出す。どうしたの?と視線を合わせると思い詰めた表情とかちあった。 「あ、あの、私も一緒に連れていってください…!」 「敵のスパイを連れて歩く趣味はない」 「そんなっ」 「別にいいんじゃないのかな?」 ポツリと思わず呟いてしまった。 「?」 「私達、そのグレバムって人の顔知らないわけだし…」 知らない人を探すのは結構骨が折れると思う。そう続けると、ルーティがにやりと笑った。 「フィリア、あんたならグレバムを知ってるわよね?」 こくりと頷いたフィリアを見て、とルーティは視線を交わす。 「ほらね?」 「…、お前も来るのか?」 「そりゃ、知っちゃったしね。あ、行くなと言われても多分ついていくよ?」 「フィリアも連れていこう。いいだろ?リオン」 スタンの声に暫く思案していたが、やがて諦めたように息をついた。 「…仕方ない」 「だって。よかったね」 「はい!ありがとうございます」 そう言って彼女は深くお辞儀をした。 '10/7/16 |