うわ、と感嘆するようには吐息を漏らした。

「……本当にいたよこの人」

クラブ棟の裏手。季節が巡れば見事な桜を観られるであろうこの場所。そこに彼はいた。
樹の下に位置するベンチには空目は寝ており、傍らには臙脂服の少女−あやめが所在無さげに立っていた。



話は少し遡る。

「あれ、ちゃん。魔王様は?」
放課後、部室に入るなりそう稜子が問い掛けてきた。中には既に空目以外のメンバーが揃っている。
は何がだと首を傾げた。
「今日は一緒じゃないの?」
「…誤解を招く様な発言は止めようね稜子ちゃん。いつも一緒に来てないでしょうが私達」
少し前から付き合いはじめた二人だが、以前として変わらない。
「あっは。やだなぁ、言葉のあやだよ」
「…ま、いいけれど。それで?空目くんがどうかしたの?」
やれやれと肩を竦めながら問うと、にこにことお願いがあるの。と手を合わせてきた。

「魔王様を探して?」

「?どういう…「はいこれ魔王様が頼んでた本。私は武巳クンと用事があるから後はよろしくねっ」
「は?ちょっと…稜子ちゃん?!」
よろしくねー!と武巳の手を引っ張ってぱたぱたと廊下をかけていってしまった。
「……どういう事?村神君、亜紀」
姿が見えなくなった廊下を半眼で眺めながら部室内の二人に問い掛けるとなんとも微妙な空気が返ってきた。
「…二人共?」
「……恭の字にその本渡すんだと」
「いやそれは聞いたんだけど…なんで?」
が空目の彼女だから。後、最後だったからな」
来たのが。と苦笑しながら村神が返す。
「………というか空目くんこっちに来るんだからその時に渡せばいいんじゃ?」
「私に聞くな。文句なら稜子共に言って」
亜紀に切って捨てられる。万事休す。はため息をついた。
「……………行ってくるよ」
「悪いな」
「諦めた。…ところで空目くんがいそうな場所、知ってる?」
「ああ、それなら……」




そして冒頭に戻る。

(寝てる…のかな?)
頬を撫でる風は少し暖かい。そっと起こさないよう近付く。あやめが気がついた。
さん…」
「やあ。…空目くんはいつから此処に?」
20分位前です。とあやめが囁いた。
という事はもう暫く眠りについたままだろう。ベンチの背もたれに寄り掛かりながらは結論づける。
「さて。見つけたはいいがどうするかね」
ぼそっと呟く。いつの間にかあやめが姿を消していた為二人きりだ。
「…風邪ひいても私は知らないよ、空目くん」
いくら風が暖かくても屋外だ。一カ所に留まっていれば少し寒気もする。
(そういえば…この人顔はいいんだよね)
ぼんやりと空目の寝顔を視界の端に収めながらふと思う。
元々、文芸部は平均的に上だ。ちなみにも一役買っている事は気付いていない。
(普段が普段なだけに…新鮮かもしれない。これは)
目をつむるだけで年相応に見えるのだから不思議だ。

「…で、そろそろ起きたら?」
「いつから気付いた?」
ぽそっと呟くと返事が返ってくる。
あやめが姿を消した少し後と答えるとむくりと空目が起き上がった。
目で座れと言ってきたのでは空目の隣にすとんと座る。
「はいコレ。君が頼んだらしい本。届けてくれと頼まれたよ」
「悪かったな」
「気にしないでいいよ。こちらも珍しいもの見れたし」
くすくすとが微笑う。
「珍しいもの?」
「風と緑の娘達がね、いたから」

妖精や精霊は人の領域近くには滅多に来ない。此処は山を切り開いたとはいえやはり人の領域だから。
おそらく同郷の匂いに惹かれて来たのだろう。

…空目の寝顔も珍しかったが。

(惚れた弱みというか…なんというか。愛しいと思ってしまう辺り重症かもしれない)
こっそりとため息をつく。
と、すぐ横で空気が揺れた。次に感じたのが膝に温もりと重量感。膝まくら状態になっている事に気付いたのはその数秒後だった。
「っ、?!う、ううう空目くん!?」
「すまん…もう少し眠らせてくれ」
「えっと、えと、いやそれはいいんだけどね?」
お願いだから一言言ってほしかったというか…。ともごもごと呟く。

名前を呼んで頬を撫で、唇をゆっくりとなぞる。
「っ、うつめ、くん…」
真っ赤になっているに小さく微笑み、空目が言葉を紡いだ。


「      」


その言葉に驚いた様に目を見開き、そして「…知ってるよ」と、小さく微笑んだ。














アトガキ
リクは「恋人設定で甘々」とのことでした。が。コレが甘いのかどうかは 果てしなく疑問。甘くなってるでしょうか…?(聞くな)
では匿名希望さん1周年企画参加してくださってありがとうございました。






07/03/12