病院や学校にはお決まりの人ではない気配。
「あ−らま。多いねぇ…」
口元を手で隠し間延びした口調で呟く。
「不可抗力とはいえ…どーしよっかなぁ…」
そう言っては正創学院大付属高校を見上げた。




「転校生?」
「そうなの。しかも、すっごく綺麗な女の子なんだって!」
武巳の机の前で稜子が力説する。
朝の喧騒。HR前はいつもこんな感じだ。
「もうすぐ夏休みなのに?」
「なんでも家の事情らしいよ」
どんな子なんだろうね。と稜子が笑う。と、そこに教師がやってくる。
「皆席につけ−!」
「あ、じゃあね。武巳くん」
「また後で」
クラスが違う稜子が教室から出ていく。

「皆も知っているとは思うが転校生だ」
女の子ですかーと誰かが言う。
「そうだ。、入ってこい」
ガラリとドアが開き、少女が入ってくる。
黒髪の、少し蒼がかった黒い瞳の少女。
です。どうぞ宜しく」
深くお辞儀してふわりと笑った。


似ている、と武巳は思った。

何がとは言えないが、武巳が陛下と呼び慕っている空目恭一に。

ただ、漠然と。



「席は…そうだな。空目の隣が空いているな」
その言葉にが動く。
「空目くんだっけ。宜しく」
「…ああ」
その言葉ににこりと微笑し、少し視線をずらし後ろのあやめを一瞥した。
臙脂色の服を纏った少女。
やっぱり多いねぇ。と誰に言うともなく小さくは呟いた。
そして武巳にとっては何事もなく4限まですぎた。
いや、何事もなさすぎたと言った方がよいのだろう。
昼休みとなると空目が転校生に何か話し掛け、了承したのか転校生が空目の後を追うように教室から出ていってしまった。
武巳はそれを、ただただ茫然と、見送ることしか出来なかった。




「なあ−、絶対変だって。今日の陛下」
「んな事言われても私等はその現場を見ていない」
「それはそうだけどさぁ…」
亜紀がばっさり切り捨て、武巳がうなだれる。
ちなみに場所は文芸室。
空目を除く2年全員が揃っていた。あの後、武巳も後を追いかけようとは思ったのだが廊下には既に二人の後姿はなく、結局こちらに赴いたのだ。
「ところで武巳クン、転校生さんはどうだった?」
「…すっごく美人」
「やっぱりそうなんだ!」
きゃあと何故か嬉しそうに稜子が言う。
「ただ…」
「ただ?」
「なんかこう…雰囲気が陛下に似ていたんだ」
「空目に?」
俊也が聞き返し、こくりと武巳が頷く。
「なんて言っていいか分かんないんだけどさ…」
「恭の字に似てるってあんたね…。その転校生に失礼だと思うけど?」
「んなこと言われても…」
「何の話だ?」
−と、ガラリとドアを開けて噂の人物がやって来た。
後ろにはあやめも一緒だ。
「あっ魔王様!」
「陛下−、さっきさんと何話してたんだ?」
「お前が欲しいと言ったらふられた」
『…………………はぁ?』
思わずあちらこちらから変な声を上がる。
たまに空目の思考回路が読めなくない時がある。(といってもいつもの事だが)
けれど、空目の先程の発言には亜紀も俊也も稜子も、武巳と同じ様に目を丸くしている。
「フラれたって…陛下が!?」
「恭の字…いくらなんでもそれは…」
「えっ…ちょっ、あやめちゃん、本当なの?」
「えっ、あ、はい」
本当です。とあやめが言う。
「嘘だろ…?あの陛下が」
「その見解は間違っているぞ、近藤」
「へ?」
「空目、どういう事だ?」
には既にあやめが見えていた」
その言葉に皆が静まりかえる。
「あやめちゃんが…?」
ああ。と空目が肯定する。
「だからを呼び出した」
何故あやめが見えるのか、と。
彼女曰く、そういう体質なのだと。
「それを知ったから俺はに言っただけだ」
「つまり…あやめと同じってことか?」
つまりあちら−異界に行く為の手段の手がかかりになるかもしれないと思ったのだろう。
「そうだが?」
「…略しすぎだよ陛下ぁ」
ぐったりと武巳が呻く。 それと同時に鐘の音が鳴り昼休みは終わりを告げた。

「なんか疲れたね−…」
「本当、人騒がせだよな」
「それはあんただけでしょ」
ぞろぞろと食堂に向かう。
「−あ」
食堂にその人物を見つけ、思わず武巳は声を上げた。
「武巳クン?」
「ほら、あの子だよ。例の転校生」
武巳が指差した方をみると彼女はいた。
確かに武巳の言うとおり、一般的に綺麗の部類に入るのだろう。
そんなことを亜紀が思っていると、すっと目の前を黒い影が通り過ぎる。
「恭の字?」
すたすたと転校生の元に向かうのを見て、4人も後を追う。
彼女もこちらに気付いたらしく、視線をこちらに向けた。

























長かった−…。色々と編集したらこんな微妙な所で区切ることになりました。
次は結構色々とやらかします。