話は少し遡る。

「で、何の用かな?空目くん」
昼休み特有の生徒達のざわめきをはるか上から聞きながら、は前にいた空目に声をかけた。
場所は屋上。授業後すぐに来たので私達3人しか姿はない。
そう、三人。と空目と−その傍らにいる臙脂色の少女。
「単刀直入に聞こう。お前はあやめが見えるのか?」
「うん。見えるよ」
あやめちゃんって言うんだ。と少女に笑いかける。
「聞きたいのはそれだけ?なら私は戻るけど」
その言葉に空目が再度問いかけてきた。
「もう一つ。お前は異界が見えるのか?」
「異界?ああ、あちら側のこと。見えるよ、そういう体質だから。けど…それがどうかした?」
(何故、彼はそんなことを聞くのだろうか)
は心の中で軽く首を傾げる。正直、彼ー空目はとても面白い人物だと思う。今日初めて会い、 まだ数時間しか一緒に過ごしてはいないのだが。これだけは言える。

彼は、異界に焦がれるものだ。と。

過去に何があったのかは知らないが明らかに異界に執着している。
けれど、まさか次に来る言葉には思いもよらなかった。


「俺はお前がほしい」


「……………………空目くん」
「なんだ?」
「どうゆう意味かな?それは」
たっぷりと間を空けたあとが口を開いた。
「聞こえなかったか?俺はお前が−…」
「いや、いい。聞こえてたから」
そうじゃなくて、とが頭を抱えながら空目に聞く。
「何処をどう順序立てたのかは大体想像がつく。つきはするけど…普通、ほとんど初対面である私に言うもの?
転校早々、厄介な人物に捕まったものだ。
「それに私に何のメリットがある?」
「今の所ないな」
「でしょう?だから、諦めてくれる?」
結局、この話はなかったこととして(空目はかなり不服そうだったが)一旦は終わりを告げた。





「なんだかなぁ…」
は一人食堂でやや遅い昼食をとっていた。あれからぐるりと校舎の中を見てきたのだ。
気分転換のつもりだったがあまりの多さに途中で引き返してきた。

あちら側の、あまりに多さに。

は魔術師である。とある事故によって元いた世界からこの世界へと飛ばされてしまった。
それがつい一週間ほど前のこと。来た当初から多いとは思ってはいたがそれの比ではない。
(あの子とは離れ離れにはなるし(カケラ)も散り散りにはなるし…やっかい事は増えるし。)
はぅ。と溜息をつく。そしてこちらへ来る空目くんの気配に気づく。

「何か?空目くん」
「了承するまで諦めんぞ」
おそらく先程の事だろう。
「…どうぞ御自由に」
ここで断ってもまた先ほどの繰り返しになるのは目に見えている為、敢えて言ってみた。
その返事に満足したのか、空目はかたりと私の前に座った。
…何も私の前でなくてもいいと思うのだけど?
「で、君達は?」
視線を転ずると知らない男女がいる。 先程、空目とこちらに来ていた4人だ。
「左から近藤、日下部、木戸野、村神だ」
「私は。近藤くんは…同じクラスだよね?」
「えっ、何で知って…」
「同じクラスの子の顔は大体覚えたから」
事もなげにが言う。
「すご−い。あ、私は稜子でいいよ」
「ありがと、稜子ちゃん」
「私は木戸野亜紀」
「村神俊也だ」

軽く自己紹介が終わり、稜子ちゃんが話し掛けてきた。
「ねねっ、魔王をフったって本当?」
「…魔王様?」
きょとんと聞き返す。
「魔王陛下こと空目のことだ」
村神に言われ、ああ成る程、と目の前の人物に視線を向ける。
全身黒装束。魔王と言われるのも頷ける。
さしずめ人界の魔王と言った所だ。
「フったと言うの?あの場合」
「一番その言葉が適当だと俺は思うが?」
「…ふむ。まぁ空目くんが言うならそうなんだろうね」
「…ぎすぎすしてないねぇ」
「というかむしろ友好的?は何で断ったんだ?」
近藤君の問いに思わず顔が引き攣る。
本人はどこ吹く風だ。
「…近藤君、稜子ちゃん……。考えてもみなさい。初対面の人にいきなりお前がほしい発言され てはいそうですかと言える?
「普通は言わないだろうね」
「でしょ?木戸野さん」
しかも転校初日に。
一蹴するか断るか逃げるかのどれかを実行するしかないだろう。
「だから断ったの。私にメリットがあるのかもわからないし」
まあ別の要素もあるんだけど。とは心の中でのみ呟かれる。
「そうなんだ。あ、ちゃんは部活何にするか決めた?」
「ん−…文芸部にでもしようかなとは思っているんだけど…」
「本当!?やった!」
えと、何?この反応。
皆を見回すと苦笑する近藤君と目が合う。
「俺達文芸部なんだよ」
「うわぁ……。てことは空目くんも…?」
「そうだが?」
ああ、頭が痛い…。
「…変えようかなぁ部活」
なんで入って−と稜子ちゃんが膨れる。
ちゃん〜〜」
「……ああもぅ入るから!だから泣かないの!」
仕舞いには涙を溜めて言われてしまい思わず言ってしまった。
「やったぁv」
「…(わざとだなこの子)」
「お疲れさん」
ぽんっと近藤君に肩を叩かれ力無く笑う。
「これからよろしくねっ。ちゃんv」
「こちらこそ」
何はともあれ、退屈はしなさそうだ。いろんな意味で。
























告白編の真相です(笑)