「何やってんの、馬鹿じゃないの?」
「…ま、確かにね」
亜紀の切り捨てる口調とのため息と共に投げ掛けられた言葉に、さしもの稜子と武巳も何も言えなかった。
昼休みの今、昨日のコックリさんの話を聞いていたのだが、は亜紀とは別の意味で頭が痛くなっていた。
(何で、こう…厄介なやり方にしたんだ)
ああもう、とこめかみを軽く押しながら亜紀の責言を流す。
「もう…からは何かある?」
亜紀の声には二人を半眼でみやる。
「…関わってほしくなかった。が本音。素人なら何もなくても『こうなってほしい』という念が重なれば雑霊位にはなるんだよ。しかもこの学校は山を切り崩してあるでしょう。霊的に関して言えば『何か』は起こりやすいんだよ」
なのに君達はやってしまうんだもの…。と深いため息をつく。
「山…?」
「昔から云うでしょう。山は神の座って」
それで二人は?と脱線しかけた話を戻すと村神は首を横に振った。
「恭の字はどう思う?」
”コックリさん”とやらについて。と亜紀が聞く。
「俺の知っている限りで良ければ、説明くらいはできるが?」
皆の是という反応に淡々と”講義”を始めた。曰く、コックリさんは占いに属し『降霊ゲーム』だと云う事を。
「…降霊ゲーム?」
「昔、”ヴィジャ盤”って云う道具が発売されたんだよ。ゲームとして」
亜紀が疑問を投げ掛けたのをが返す。ちなみににとっては既に知っている事柄だ。
「よく知ってるね、ちゃん」
「…まぁ、知り合いが以前、大枚叩いて買い付けてた事があるからね」
久々に思い出したよと遠くに視線を飛ばす。
「元になったプランシェットやテーブルターニングも有名かな…」
「ああ、中国の道教にも同様の占いがありふうちと呼ばれている」
「へぇ…」
そして現象に関する原理を見せ、今回は交霊会のノウハウが利用されているな、と明らかにする。
「要するにコックリさんは、現象だけならいくらでも起こる可能性があると」
そういう事だよね?とが確認をとる。それに頷いて空目が口を開いた。
「よって何が起こっても、霊の仕業だと鵜呑みにする必要はない」
「うん……」
「だからこの場合は気にするべき対象が違うな」
宗教じみた勧誘とかあるか?と武巳達に問い首を横に振る二人を見、なら−。と微かに目を細め、 「――特に気にする必要はない」
以上だと最後にそう言って、視線を元のように床へと戻した。




「雪村月子、か……」小さく、誰にも聞かれなく呟く。彼女の名は校内で有名だった。空目達も知っていそうなものなのだが、どうやら見る限り、知らないらしかった。

(魔女の、一の弟子)

霊感少女と呼ばれ、魔女に『異界』を教えられた子。

空目はああは言ったが、もう遅いのだろう。

今後を憂えて、は目を伏せた。











事はその日の6限に起こった。午後の緩やかな空気の中に異質なモノを観つけたのだ。つ、とが窓の外を見る。

「……?」
微動だにしなくなったに訝し気に空目が名を呼ぶ。
見ているようで見ていない。ただただ虚ろ気に何かを眺め続ける
空目が暫く観察をしていると、が小さく「…あ」と呟き焦点が定まった瞳で空目をとらえた。
「何を見ていた?」
「見ていた。というか…誰だっけ……。雪、村さん?コックリさんやってた人」
彼女、死んじゃったよ。と淡々と呟く。
静かだった教室に隣のクラスから波が押し寄せるかのようにさざめき、ざわつきはじめた。不意に誰かが言った。
女子生徒が、飛び降り自殺をした。と。











「……さて、それでは事情を伺いましょうか」

翌日の昼、機関に呼び出され夏の様に話し合いが始まった。達が召集される今まで、芳賀は刑事の振りをして多絵と久美子から事情聴取を行っていたらしい。
大まかな今回の件の流れを説明し、2人の身柄は空目達に預けられることとなった。武巳の見たという目隠しをした男の子は、おそらくが以前遭った少年に間違いないだろう。
それはいいのだが、は空目の言葉に何か引っかかっていた。芳賀が退室した後、達もそれぞれ教室に戻る。5限が始まる間近の特有の喧騒の中、隣の空目にぽつりと呟いた。


「『異界』の匂いがなかった…?」
本当に?と首を傾げると空目が頷いた。
「気付かなかった、と云う事は?」
「有り得るだろうな。だが、まだ確定はしていない」
そう、と言葉を切る。今は待つしかないのだろう。思考できうる材料が揃うまで。ふと、少年の面影が過ぎった。
「どうした」
いや…と口ごもり、小さく息をついた後口を開く。
「”そうじさま”。…君に弟、いた?」
「…何故そう思う」
感だよ、唯の。とが頬杖をつきながら云う。さらり、と髪が流れた。


似ていた。と思う。目の前の彼と少年は。根拠はないが、何となくそう思った。

あの魂には余計な物もついていたわけだし。と目を細める。

余計な物――術式の欠片。


表立つ怪異の近くにそれは在った。偶然には多すぎ、何処作為的なものを常々感じていた。

(夜闇、お前の仕業か――…?)


胸中で問い掛けた言葉に、さわりと午後の風が頬を撫でた。

























08/04/09 up