ねえ、いっしょに遊ぼう――? 「君は……」 ねえ、いっしょに おねえさん………………。 その日は、昼休みから皆が集まっていた。 珍しい事に、今日は俊也が皆を呼び出したのだ。部外者には聞かれたくないらしく、部室ではなく小教室に集まっていた。 「どうしたものかねえ……」 俊也の話を聞いた後、亜紀が呟く。 話題にしていたのは、俊也によって伝えられた空目の弟の話だった。空目想二。空目の弟で、昔『神隠し』によって行方がわからなくなったという。 やはりか、と一人心地るを余所に皆の視線が空目に向かう。空目は無表情に皆を見回して、小さく溜息をついた。 「…聞いても仕方ないぞ。可能性の一つにすぎん」 「構わないよ。是非聞きたいね」 亜紀が代表して言う。 「…俺の想二に関する記憶はそう多くはないぞ?」そう前置きし、空目は静かに語り始めた。 本人の言う通り、神隠しに遭ったのは幼い時で唯一、想二が赤いクレヨンが好きだったのを覚えていたくらいらしい。 「実際、俺が想二について知っているのはこれくらいだ。 だから、このそうじさまが想二と関係あったとしても、俺には確かめる統べが無い…」 空目はそう言って机の上で指を組んだ。 「近藤が見たという夢の子供を想二かどうか判定する事も、俺はできない。大体それすらも俺には興味ない」 今は事件への対処に有効である可能性があるから、こうして話しているに過ぎない。そう無表情に淡々と続けた。 「でも、赤いクレヨンか…」 まるで弟君の事を詳しく知ってるようなお膳立てだね。”そうじさま”は。 亜紀が言い、そうだなと空目が頷く。 空目いわく、”そうじさま”は『トロント心霊研究協会の人工幽霊実験』の手法と似ているのだという。 「人工、幽霊?」 「…”そうじさま”や”コックリさん”は交霊のカテゴリに入ってないよ?」 「…そうなの?」 知らなかったらしく、稜子と武巳が声を上げた。は息をつく。 「…”そうじさま”も”コックリさん”も、設定がアバウトなんだよ。全国にどれだけ類似するものがあると思っているの」 コックリさん キューピッドさん お稲荷さま そして そうじさま これらは全て、集合体の名でしかないのだ。 シチューの具と、同じ事だ。 「それを喚ぶということは、もう召喚魔術でしかないの。カタチ無きモノにカタチを与えるのは、ね。………カタチを与えた所で、その器に魂はあるかと言えば違うのだけども」 それで話を蒸し返して悪いんだけど…、とが呟く。 「かなり歪められてはいるけど、あれは君の弟だろうね」 おそらく。と言いながらお菓子の包みを開ける。 皆が黙ってしまったので何?と首を傾げれば、お前…と顔をしかめて俊也が問う。 「空目の弟を知ってるのか…?」 知らないよ。と否定する。 「ならなんで…」 「少し前から『いっしょに遊ぼう』と目隠しをした少年に誘われているから」 「………!」 なんてことはない。というようには平然としている。 その様子に、逆に俊也達は息をのんだ。驚きはそれぞれだが、稜子と武巳、あやめは真っ青になっている。 唯一、眉をしかめた空目が口を開く。 「いつからだ?」 「私が逢ったのは”そうじさま”の事が起こった翌日辺りからかな」 その前にも何度か見ているのだがそれは言わなくても構わないだろう。 何故かと目で問われ、肩をすくめて答える。 「暇つぶしかな。後は探していたモノを持っていたから」 暇つぶしって…。武巳が呆然と小さく呟くのが聞こえた。 「そうとしか言えないんだよ、この場合。心配しなくても私は感染していない。これからも、ね」 何故断言できるのかと問いたかったができなかった。そして先程の引っ掛かりを探す前に、空目が再度口を開いた為、浮上しかけていた疑問が沈んでいってしまった。 「それは想二なのか?」 「魂が模るカタチは君と酷似していた、とは言っておく」 私は生前の君の弟を知らないから、何とも言えないかな。 そう言うと、空目は息をついた。 「…今はどんな様子だ」 「ん?懐かれた」 『…………………』 「な、懐かれただぁ?」 俊也の言葉にこくりと頷いた。 特に会話もしていないはずなんだけどねぇとぼやきながら。 「、あんた平気なの…?」 「今の所は。皆には迷惑はかけないよ」 それに気になる事もあるし。口の中だけで呟いて、何か分かったら報告はする。と空目達に言った。 「…本当に平気だな?」 「平気だよ。こんな事で 壊れるわけがない」 放課後、亜紀と稜子が寮の2人に話を聞きに行き、もうそろそろ帰って来ると思われる頃、不意に空目が言葉を発した。それに肩をすくめて返す。 「それにしても、の所にも空目の弟が現れてたとはな」 壁に近い席に座っていた俊也が言う。 「”探しモノ”に惹かれたんだと思うよ。アレは元は同一の物だったから、知らず引き寄せられたとしてもおかしくはない」 もう少し早いかとも思ってはいたのが本音だが。ちらりと武巳に目を向け、元に戻す。 「大方、雪村さんの行った”そうじさま”が活性化させたんだろうね…」 そして、ぎりぎりに安定を保っていた空目想二の魂と作られた身体が崩れてしまったのだろう。 武巳が見た想二がどちらなのかは分からないが、雪村月子を追いやったのはおそらく身体の方だ。 そんな事を考えていると、亜紀が寮から帰って来た。 「木戸野、それは?」 俊也が持って来た紙を指摘すると、雪村月子の遺書らしいよ。と皆に見せた。 赤いクレヨンで書かれたそれは一際目立つ。はそれを一瞥して、夕方になりつつある窓の外に意識を向けた。 ね、あそぼう? 「…あまり遊ぶ事は出来ないけれど、それでもいいのなら」 ―――うんっ 08/05/23 up |