彼女-――混沌が衣を翻すと黒と白、二対の光球が生まれ出でた。 「我が内より生みいでし幼子よ。 我の力を受け継ぎし者達よ。 愛しき汝らに名を与えよう 」 そう告げ、宣言する。 「我の闇を受け継ぐ者よ 我の光を受け継ぐ者よ 二人で一人。一人で二人。 この世界を護る、もう一つの存在とならんことを― 」 遥か昔、創造の民と呼ばれる存在がいた。 彼等は各々が箱庭を造ることが存在意義だった。 神と呼ばれる存在は彼等が箱庭を造る過程に生み出されしモノであり、彼等をさす言葉ではない。 敢えて呼称をつけるなら[創造主]であろう。 彼等は全能かと問われればそれは否。けれどもどんなモノより理に近い存在だった。 これは混沌と呼ばれる彼女の記録である。 『玻璃の被膜』 そこまで文章に目を走らせて、亜紀はふぅと息をついた。 「物語、というか、神話系なんだねー」 「珍しいね。あんたがこんな話を書くなんて」 「・・・そう?」 「だってそうじゃない?もっと堅いものを書くかと思っていたから」 亜紀の言葉には肩をすくめる。 『輝石』に収録される文芸部員の原稿が提出される中、ふとした思いつきで綾子と亜紀、はお互いの作品を読みまわしていた。 「まぁ…論文系統を読むのは少数派だと思ったし、別に私が書かなくとも書きそうな人はいる、というのもあるけれどね。…コレは、一度はちゃんと書いておきたかったというのが本音かな」 そう言われ、二人が瞬時に思い浮かべたのか、苦笑に近い乾き笑いがこぼれる。 「あはは、そっかぁ。…でも、ちゃんと書いておきたかったって…何か思い入れでもあるの?」 綾子の言葉と、亜紀に視線で促され、とつと呟く様に言う。 「まあね。 私と、私の友人の約束でもあったから。いつか書いたら贈る、ってね―――」 だから、こうして書けてよかったよ。 そう言っては微笑った。 遅くなりましたが、間章の開幕です。 09/05/31 up |