いっしょにいようね、私の共犯者 そう言って私は笑った。 言われなくてもいるよ、私の理解者 そう言って彼女は微笑った。 そう交わした約束は、変わることなく今も在る。 「あと、すこし……」 「…え?、来てないのか?」 武巳のきょとんとした声が部室内に響く。 秋の色がだんだんと濃くなってきた週明けの月曜。突然、が学校を休んだのだ。 あの悪夢の日から1週間弱。 そうじさまの事を、そしてあの時見た幼い少年の事はいまだ自分の中にくすぶっている。付け足すならば、に聞こうか悩んだ期間でもあった。 ”自分の見た少年は、が遭ったという少年と同じなのか?”と。 けれど言い出す勇気は未だなく、そこにの不在ときて少しばかり胸を撫で下ろしたのも事実だ。たとえそれが、逃避を含んでいたとしても。 「そ。1週間位、家の事情で休むってさ」 亜紀が読んでいた本から視線を上げそう告げる。 珍しい事もあるものだと武巳は首を傾げた。 「あのがなぁ…」 まさか休むとは。そう武巳は呟いた。 心の何処で、はそう休むはずがないと思っていたから尚更だ。 「ちなみに、家の事情って?」 「私が知ってるわけないでしょうが」 「……はは、そりゃそうだ」 亜紀のもっともな返事に頬をかく。呆れる亜紀を残し、稜子と武巳の会話は続く。 「にしても、一人欠けると静かだな」 「だよね。ちょっと足りない感じ」 ぽす、と机にひっつく。稜子がぽつりと呟いた。 「…そういえばさ、私達、ちゃんのこと何にも知らないよね」 「…そうかぁ?」 「そうだよ」 「ま、この年にもなって家族云々は言わないと思うけどね」 本を読むのは諦めたらしく、亜紀が眼鏡を外してケースにしまいながら言う。むぅ、とふくれながら稜子はなおも言いつのった。 「でもでも、ちゃんに兄弟がいるかさえ知らないんだよ?」 「…一人っ子じゃないの?」 「んー、兄弟いそうに見えるけどなぁ」 「………根拠は」 「ない!」 基本的に、亜紀たちはお互いのことを詮索しない。だからこそ今まで話が上がらなかったのだ。 ふ、と3人が口を閉ざした部屋に他の音が空気を揺らした。そちらを見やると、ガラリと文芸室のドアが開き、遅くれて来た空目たちが入ってきたところだった。 「村神たち、おはよー」 「おう」 「あ、魔王様。それに村神君にあやめちゃん。3人はどう思う?」 「……何の話だ?」 唐突な稜子の言葉に俊也が訝し気に尋ね、亜紀が肩をすくめて返す。 「に兄弟がいるかって話」 あんたたちは知ってる?と一応はふってみる。 流石に知らないだろうと思っていたが、思わぬ方から返事が返ってきた。 「妹がいると、聞いたことはあるが?」 間。 『―――――は?』 「え…そ、そうなの?」 異口同音に声を発したのは亜紀と俊也。何故か目を輝かせている稜子。あやめは分けがわからず、きょとんとしている。 そんな面々を素通りし、空目はいつもの定位置に腰を下ろす。 真っ先に解凍したのは武巳だった。 なぁ、と恐る恐る武巳が代表して問い掛ける。 「へ、陛下……、何で知ってるんだ…?」 そう、誰もがそう思った。他人に興味のない(といったら語弊があるかもしれないが)空目が何故、そんな事を知っているのだと。 周りの視線を気にせず、 この間話に出た。と広げた本から顔を上げず淡々と空目が告げた。 「……妹、ねぇ。にしても、なんで恭の字との会話でそう来るのか理解できないんだけど」 先程の衝撃から抜け出した亜紀の呟きに、稜子と武巳がこくこくと同意する。 「………そんなに不自然か?」 『ものっすごく』 不思議そうに眉を寄せる空目にに今度は稜子と武巳が同時に言った。 「だって、だってだよ?魔王様もちゃんも他人の事情に興味なさそうっていうか…」 「必要以上に口出ししないよな…二人共。村神と木戸野もそうだけど」 「それが普通なの。稜子はありすぎなんだよ。もう少し抑えな」 「そんなっ、無理だよ亜紀ちゃん。噂と恋バナは女の子の必須アイテムなんだから!」 「そんなのないから。馬鹿なこと言ってない」 二人のやり取りに苦笑しながら俊也が口を開く。 「というかお前ら、そもそもなんでそんな話になったんだ?」 「ん?あぁ、がしばらく学校休むらしいよ。家の事情でらしいけど」 「…珍しいな」 「あたしらもそれに関しては同感。」 「………………」 「どうかしたか、空目?」 「いや……」 いつもの、さして変わりない日常。 たった一つを除いて、廻ってゆく。 力ある言葉が空間に蹂躙する。白銀と蒼の光が踊った。 しゃん−と波が場を揺るがす。 「さぁ、始めようか−−−」 私は私の役目を 09/12/24 up |