学校が終わって放課後、稜子とは亜紀の家までやって来ていた。
亜紀の家は本ばかりだったが、の家も似たようなものだからこんなものか。と一人心地する。
唯、気になったのは 微かに獣の匂いがしたこと。複数の気配がそこかしこからすること。

亜紀の家に、

部屋に、

家の外に。

これは疲れるな。とユッカを撫でながら周りを見回した。
稜子は落ち着かないらしく、しきりに部屋を見回している。
そしてもうひとつ―――(カケラ)の気配がすること。

「ごめんね。急に押しかけてきて」
「別にいいよ。…手伝ってくれる?」
持ってけないから。と亜紀の言葉にが動く。
の猫はミルクでいい?」
「うん」
言葉はいつもと変わらないが、やはり表情は固い。時間が経つに連れて周りに獣の匂いが、気配が強くなりユッカの毛が逆立って気配に向かって威嚇する。
先程から稜子と亜紀が会話をしていたが、それが途切れると急に異様な静けさが三人を襲う。稜子が頑張って話そうとするがそれも皆無になる。
(そろそろ潮時か…)
稜子に帰ろう。とが声をかけようとしたその時。

かりっ、かりっ……かりっ……


その瞬間、亜紀と稜子の顔が同時に強張り、が音のした方を険しく睨みつけた。
「……何?何かいるの?」
稜子の問いに亜紀は答えない。
「稜子、今日は帰ろう」
ちゃん、何言って…」
の言う通りだよ。…帰らなきゃ」
そう言う亜紀は顔色は蒼白で、能面の様に無表情だ。
「大丈夫だから、帰りな?」
「で、でも…」

「亜紀」

の呼び掛けに亜紀の視線がこちらに向く。
「……何?」
「塗り薬。血が止まらないようだったら、塗っておいたほうがいい」
のその言葉に初めて稜子は亜紀の指を見た。
彼女のそれは、どす黒く変色し、傷口はそれこそ果実の様に中身の肉を晒していた。
「あ、亜紀ちゃん、それ…」
思わず稜子が言うと、ああ、大丈夫。と平淡に呟いた。
「稜子達は、帰んなさい」
強い口調で亜紀が言った時、変化が起こった。
その途端に、むっ、と獣の匂いが部屋に充満したのだ。
そして頭の中で甲高い犬の泣き声。




「まさかここまでとは…」
がぽつりと呟く。稜子は恐怖にかられ、走って帰ってしまった。
まさかここまで追い込んでいるとは思わなかった。
通常の感覚であれば狂っていただろう。それでも狂わないのは亜紀は強いからだ。
(仕掛けはしたし、後はどれ位の強さかって事かな)
雨の音を聞きながら一人心地る。

実は先程、亜紀の家に栞を置いてきたのだ。風の精霊の描かれた栞を。
それは家主の危険に反応して守るというもの。
そして、帰りがけに亜紀に渡した塗り薬も傷の侵食を緩める効果がある。最低限命の保障はできるはずだ。
自分の住んでいる家に向かいながら、おもむろに携帯を取り出し、電話をかける。数コールで繋がった。


か?』
「うん。亜紀の家に行ってきたよ」
呪力も気配も凄かった。と報告する。
『木戸野の様子は?』
「辛うじて、って所かな」
『そうか…』
「出来ればFAX自体を止めなければならないが…無理だな。亜紀は対決するつもりだ」
『…詳しく話を聞きたい。今から来れるか?』
「……は?
空目の言葉にしばし沈黙する。
「ちょっと待て。それは私が空目くんの家に行くの?」
『そうだが?』
「私、君の家何処か知らないよ?」
『あやめがそちらに向かっている』
何処まで用意周到なんだこいつは。
「……分かった。行くよ行けばいいんでしょ?」
はあ、溜息を吐きながらが応える。

長い一日になりそうだ。とは天を仰いだ。














お久しぶりです。
以前upしたのが8月終わり頃だったから…かなり時間空いてしまいましたね。
次は空目宅です(笑)