蟲煙草の煙を吐きながらふとギンコは隣を見遣った。

「そういや、は覚えているか?」

「何を?」

「初めて会った頃の事」

その言葉に僅かには逡巡し、覚えているさと頷く。

「どうせだ。昔話でもするか?」

どうせ暇だしな、とギンコは目を細めつられ、も微笑んだ。









-回想-










二人が出会ったのは幾度めかの講でのことだ。 ギンコが馴染の他の蟲師たちと挨拶を交わし輪に入ると、不意に声をかけられた。

「隣、かまわないか?」

幼さが残る少女の声だ。振り返るとそこには17,8才位の濃紫の着物の少女が立っていた。

「おぅ、嬢じゃねえか。久しぶりだな」

蟲師の一人が名を呼ぶ。どうやらこの少女はという名前らしい。

「嬢は止めてくれと何度も言ったよ。センヤさん」

苦笑しながらと呼ばれた少女が返す。
そしてもう一度隣はいいかと尋ねられ、ギンコは了承した。

、と言ったか」

「ああ。そちらさんの名はなんて言うんだ?」

「ギンコだ」

がやがやと賑わう中、お互いの名を名乗る。
は何度かその名を呟き、ふむ。と頷く。

「ギンコか…良い音だな」

「そりゃどーも」

「それにその瞳も。

山の樹々の、深い緑の色だ」






「そんで確か、お前その後可笑しそうに笑いっぱなしだったんだよな」

「失礼な。私はそんなことしてない」

む。と頬を膨らしてが抗議する。

「してた」

「してないと言っている」





(……やはり覚えていないんだな)

ギンコと昔の事を語り合いながらは心の中でそっと呟く。
本当は、それが二人が初めて会ったわけではない。ずぅっと前に一度だけ、会ったことがあるのだ。



『ねえ、君のなまえは?』



『………ギンコ』



『よい音だね。わたしはって言うの』



(ま、覚えていなくて当然かもしれないが)
あの時は幼かったし、何よりは病弱だったのだから。


「おい、?」

何一人で笑っているんだとギンコは呆れる。

「いや、何でもないよ」

まさか、会えるとは思わなかった。




(縁とは、不思議なものだな。全く)