「雲雀くん、来週くらいにね、流星群が見えるらしいんだって」

楽しみだよね。と向かいの雲雀には笑って言った。ちなみに場所は応接室。本日ノルマの風紀委員の雑務も一息つき、そういえばもうすぐ冬休みだなぁと思いを馳せる今日この頃。ふと昨日ニュースでやっていたことを思い出したのだ。どうやら雲雀は知らなかったらしく(まぁ気にも止めなさそうだもんなぁ…)、カップを持ち上げた手が止まった。

「…流星群?」

「うん。ふたご座流星群」

「…好きなの?」

去年も思ったけどそういうの。と雲雀が続けると好きだよー。と弾んだ応えを返す。

「まぁ流石に流れ星に願い事、って言うのはしないけど。去年は散々だったけど綺麗なものは好きだから」

綺麗なものは好き。あと可愛いものも。
ふぅん、と呟き雲雀は嬉しそうなの顔を見ながら紅茶を口に運んだ。











「雲雀くん、来週くらいにね、流星群が見えるらしいんだって」

そう、が云ってきたのはいつもの様に雑務を終えた後の休憩のときだった。
流星群と聞いてああもうそんな時期かと思う。去年は確か、は熱があるのに無謀にも一晩中夜空を見上げて次の日風邪を引いていた。正直言って馬鹿にもほどがあると思った。どうやら今年も見るつもりらしい。馬鹿だ。

(彼女らしいといえばそれまでなんだけど)

どうするかな、とカップに口をつけながら思考を巡らした。


















さー今年こそは観るぞと張り切ってるとツナ君から不思議そうな顔をされた。「なにかあるんですか?」と聞かれたので「今日、流星群が観れるの」と言うとへぇとあいまいな返事が返された。やっぱり男の子はそういうの気にしないのかもなーとつらつらと思考が流していると、何かを思い出したようにツナ君が声を上げた。
「ああでもハルがそんな事を言っていたような…」
「ハルちゃんかぁ。好きそうだよねー」
かく言う私もその一人だけど。と言って笑う。ハルちゃんといえば必然的に京子ちゃんも思い出した。あの二人は好きそうかも。今度また一緒に遊びたいなぁ。
さん楽しみなんですね」
「うん、楽しみ」






そして夜。うきうきと準備をしているといきなり電話が鳴った。誰だろうと思って見たら思ってもない人だったわけだが。

、今すぐ出れるかい?』

「え、雲雀くん…?」

『防寒対策してすぐに玄関に出てきて』

それだけ告げてぶちりと切れた。そしてすぐにバイク音が聞こえ、横暴だなぁとぼやきながらコートとマフラーをつけて玄関に走る。魔法瓶を入れた鞄も忘れない。雲雀くんの突飛な行動にも慣れたよなぁと思わずは遠い目をして呟いてみる。案の定、雲雀はそこにいた。それにしてもご近所の迷惑にならないのだろうか。だって今は夜…(まぁ雲雀くんだしなぁ)

「えーと、雲雀くん?」

「いいから乗って」

早くしろと言う視線におずおずと後ろに乗る。控えめに雲雀の服の端を掴むと、景色が飛ぶように移り変わっていった。周りを吹き抜ける風が少し冷たい。でもこんな時間に何処に行くのだろう。考えていた時間はほんの数分だった気がする。ブレーキ音がし、気がつくと見慣れた建物がそびえ立っていた。

「って学校?」

何故に。と思う間もなくスタスタと校舎の中に入っていく雲雀に慌ててついて行く。


「ひ、雲雀くん。何で学校に…」

「………」

「(無視か!)……雲雀くーん」


カツンカツンと二人分の音しか聞こえない。
証明の落とされた校内は暗く、非常灯の光でぼんやりと廊下を照らしている。寒々とした光景に少し不安を覚え、もう一度彼の名を呼ぼうとしたら数段先を上がっていた雲雀がこちらを振り向いた。

「ひばり、くん…?」

おいで、とぎりぎりで聞き取れる音量で言われ誘われるようにが雲雀の隣に立つと、ガチャンと目の前の闇が四角く切り取られ濃紺の闇と白く散りばめられた光が視界に収まった。気付けば屋上まで来ていたのだ。





「う……わぁっ」

思わず声を上げて外へと駆け出た。白く息が散ったがそんなことは関係ない。

「すごい…凄い凄い凄い綺麗…!」

満天の星の粒子が瞬くその光景。ベランダで見るより視界の広い景色(当たり前だけど)にはもう凄いと綺麗しか言えない。此処にいるのは私と連れて来てくれた彼だけ。誰も文句は言わない。言われない。視界の隅にひとつ星が流れていった。

「気に入った?」

「雲雀くんっ、ありがとう!」


満面の笑顔で言うと笑った気配がした。




[の雨が消える前に]

















material by 空色地図

07/12/22 up