雲雀恭弥という存在を語る前に最初に私−の経緯を話そう。 だって私が喚ばれなきゃ家の掟に従わなきゃ彼と会う事もなかったんだから。 「…ちょっと待って。今、なんて言った?」 「だから本家に1年間いきなさい。って言ったの」 中2生活真っ只中という今日この頃。夏休み友達とどこに行こうかなーとかかなり楽しみにしていた矢先のことだった。 親から突然言われた本家行き。誰だって何それ!?と叫ばない訳がない。 「何なのよそれ。聞いてないよ!?」 「そうね。だって今言ったもの。」 これも我が家の掟だからしょうがないのよ。と笑いながらのたまう母。 ちなみにそんな掟なんか聞いた覚えもない。いや、たんに私が知らなかっただけなのか? 「とにかく、私は行かなー…」 「ちなみに拒否権ないから」 「ないの!?」 「…やけに賑やかだと思ったら、何してるの?」 「あらおかえりー」 「お姉ちゃん!!」 3歳年上の姉が帰って来た。私にとってお姉ちゃんは尊敬して敬う位大好きな存在だ。 (ようは姉馬鹿)本家行きの事を泣き付きながら話すとあっさりとした返答が帰ってきた。 「私も行かされた」と。なんでも中1の時に無理矢理行かされたらしい。 …そういえばそんな事もあった気がする。半ば呆然としつつかくして私の本家行きは決まったのだった。 「……つっかれたー」 本家の門の前では溜めていた息を吐き出した。 後は転入の手続きをしに秋から通う中学に行かなくてはいけないとなー…。 お姉ちゃんが以前使っていたという家に荷物が運び込まれてる筈だから帰ったら片付けをしなくては。 (叔父さん、叔母さん…我が儘通してくれてありがとう。) 悪い事したかもしれないと思う。 叔父達の家で暮らしてもよいと言われたのに断ってしまったから。 (今度遊びに行こうっと) 今は中学の手続きが先だ。そう頭を切り替えてはこれから通う並盛中へと進路を変えた。 ガララッ 「失礼しましたー…」 思ったより時間がかかってしまった。 こんな事なら世間話を聞くんじゃなかった。 ああけどお姉ちゃんの話題もあったからどうしても聞きたかったんだよ! 空はもう朱く染まりかけてきている。 窓から差し込む光は柔らかく、そして色濃く影を作り出していた。 その中を独りは歩き出す。カツン、カツンと静かな空間に足音を響かせながら。 そんな時だった。 「…ねぇ、君だれ?」 「へ?」 俯かせていた顔を上げると、誰もいないと思っていた廊下の奥から黒い影がこちらへ近づいて来た。 よくよく見てみると黒い学ランだという事がわかる。ここの生徒なのかな。 けど普通はいない筈、だと思うのだけど。(だってまだ夏休み) 「…うちの生徒、じゃないよね。転校生?」 「あ、うん。そうだけど」 ふぅん。と彼は呟いて黙したままこちらを眺めた。 「……」 「………」 (……沈黙がいたい…!) どうしよう。どうにかしてこの状況を抜け出さなければ。 とよく分からない思考がぐるぐると頭の中で回っている。ようやく抜け出せたのは彼が言葉を発したと気付いた時だった。 「……名前は?」 「え?あ、です。。」 そうが答えると、そう。と呟いてそのままどこかへ行ってしまった。 呆然と後ろ姿を眺めて彼がいなくなってぽつり、と思わず呟いた。 「…なんなの、一体」 第一印象・よくわからない人 。 そう結論づけて今度こそは学校を後にした。 「あ、名前聞いてないや」 ま、いいか。同じ学校ならどっかで会えるっしょ。 |