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「…ん……ここ…は?」 目が覚めると見馴れない天井が広がっていた。頭が痛くて少し怠い。暫くぼんやりとしていると段々意識がはっきりとしてきた。 それにしても、此処は何処なのだろうか。私は公園にいた筈なのに。 「私………確か、急に光に呑まれて、変な声が聞こえて…」 ゆっくりと身に起こった事をなぞる。 光に呑まれかけた時、自分が自分でなくなる感覚がした。 怖かった、のだ。とても、とても。 指が、手が、腕が。 足が、地に立つ感覚が、薄れていって。 本能的に怖かった。 それに…と柚乃は思い返す。 あの時、聞こえた声は一人じゃなかった。僅かにぶれて聞こえた声。 淡々とした口調で、どろりと張り付く様な声に背筋を粟立たせる感じが蘇った。 「それで…沙羅がユッカを呼ん、で…ってそうだよ、沙羅は!?…っぁ~」 いきなり起き上がった為か頭がくらりとする。お陰で視界が一気に黒く染まった。 漸く治まるとコンコン、と遠慮がちに扉が叩かれた。 「え…はい?」 「あ、お姉さん。起きたみたいですね」 カチャリと扉が開かれ、少年(もしくは少女)が入ってきた。私より少し背が低く、目が合うとにこりと微笑みかけられた。 「えっと…?」 「あ、僕はカノンと言います。お姉さんは?」 「私は柚乃、です。えと、一つ聞きたいのだけど…」 「何ですか?」 「ここ…どこ?」 「ここですか?サイジェントです」 「サイ…ジェント?」 「はい王都ゼラムの西に位置してます」 私の、知らない名前だ。 一瞬外国にいるのかと思ったが、それも違うみたい。…日本じゃないのは確かみたいだけど。 「…カノンくん、もう一つ聞いていい?この世界の名前って-…」 「え?リィンバウムですけど」 トクン その名前に柚乃が反応する。 (何だろ……この感じ……懐かしい?) 酷く懐かしい名前に胸の奥が疼く。ぞわ、と身体が震える。 まって。何故、私は懐かしいと思った………? 知らない、のに。そんな名前、知らないはずなのに…。 「-おい」 「えっ、はい。……ええっと?」 いきなりかけられたカノン君ではない低い男の声に、はっと意識が引き戻される。 視線をさ迷わせると、扉に寄り掛かる様に白髪(…銀髪?)に病人の様な白い肌。 そして一番引き付けられる紅色の瞳をした長身の人がこちらを見ていた。 第一印象 「…………………兎?(ぼそっ)」 「ぁあ?なんか言ったか?」 「いえ何も。…えと、どちらさまでしょう?」 「あ、柚乃さん。この人はバノッサさんで、ぼくの義兄弟なんです」 バノッサさんが柚乃さんを連れて来てくれたんですよ。 恐る恐る尋ねると、にこにこにことカノン君が紹介してくれた。 ……見れば見るほど兎に見えるのは気のせい。ということにしておく。 柚乃はとりあえずその思考を捨てた。 「ええと、柚乃です。助けてくれてありがとうございました」 ぺこりと頭を下げた時正座したのは何となくだったりする。 その行動にバノッサはふぃっと顔をそむけ、カノンはそんな、気にしないでください。 ちなみにバノッサさん照れてるだけなんで。と笑った。 「ところで柚乃さん、なんであんな場所に倒れていたんですか?」 この辺りはスラムになってるんで危ないですよ? だが柚乃はふるふると首を横にふった。 「分からないの。気がついたら此処だったし…」 そしてある事に気付き、ばっと俯いてた顔を上げる。 「あ、あのっ。私が倒れていた近くに、私と同じ様な女の子いなかった!?」 「女の子…?」 こくこくと頷く。 「バノッサさん、あそこには柚乃さんしかいませんでした、よね」 「ああ」 「そう……ですか」 あの時、私と同じ様に光に吸い込まれたのは覚えている。 なのに、なんで沙羅はいなかったのだろう。 「…柚乃さん、もしかして誰かに召喚されたんじゃ?」 「召喚…?どう、なのかな。急に光に呑まれたのは覚えてるけど…」 そう言うと、それですよとカノンに頷かれた。 「どの世界から来たか教えてくれますか?」 「………地球ってわかる?」 恐る恐る言うと首を傾げられた。バノッサにも視線を向けたが知らんと返される。 シルターンとかサプレスという名に覚えは?と聞かれたけど首を横にふった。一瞬、懐かしい気もしたのだけど。 「困りましたね。僕らが柚乃さんを見つけた時は召喚師もいませんでしたし…」 「…手前、もしかしなくても『はぐれ』か?」 「バノッサさん!」 「あの…はぐれって?」 柚乃が怖ず怖ずと尋ねると仕方なさそうに教えてくれた。 「そのまんまだ。召喚師に喚ばれたはいいが、召喚した奴とはぐれた奴等の事だ」 それを聞いて漠然と、何かが心の中を浸蝕していく。 喚ばれた? だれに しょうかんしに チガウ 私と沙羅は よばれた? チガウ わたしは はぐれ? チガウ アレは あの声は---- 「…は、違う」 ぽつりと呟く声にバノッサとカノンの視線が集まった。 「おい?」 「柚乃さん?」 「違う。私と沙羅、は……だった。……を、ヨぶための」 視点が定まっていない柚乃。 その瞳は、暗く闇く冥い光が内包されていて。 平坦さと 無機質さと 微かな苛立ちが混ざりあったかのような漆黒の色にバノッサは我知らず戦慄する。 「っ、おい!」 思わずバノッサが柚乃に呼び掛けるとビクンと肩が震え、一瞬後には先程の柚乃に戻った。 「え……あれ?」 どうしたの?と柚乃が首を傾げる。バノッサとカノンは顔を見合わせ、暫く黙し、なんでもないという返事が返ってきた。 気付けば先程の感覚は消えていた。 なんだったのだろうと思いながら、それで。と言葉を続ける。 「私、元の世界に戻れると思います…?」 残念ですけど…とカノンが言う。 「普通は、喚んだ召喚師しか帰せないらしいので…すみません」 「カノン君が謝ることじゃないよ。でも…そっか。なら、仕方ないよね」 心配かけてごめんねと笑いかける。 「……。柚乃さん」 「なに?」 カノンは何かを思案していたようだったが、ふいに顔をあげた。 「此処に住みませんか?」 「へっ?」 「おい、何言ってやがるカノン」 「バノッサさんは黙っててください」 声を荒げたバノッサをスパッと笑顔で封じ込め、どうですか?と柚乃に尋ねる。 「で、でも迷惑なんじゃ…」 「ああ、平気ですよ。ここはスラムですが見掛けより良い人達いますし。 バノッサさん、この辺りの頭なんで。それに、ほっとけませんしね」 ね、バノッサさん。とカノンが笑顔で振り返る。 「…いいんですか?」 「……勝手にしろ」 「はいvこれから、よろしくお願いしますね柚乃さん」 「…うん、こちらこそよろしくね」 |