「…暇だわ」
縁に寄り掛かりながらは呟いた。



事の起こりは数時間前。
神の眼はカルバレイスへ向かったと聞き、今こうやって船に乗り魔の暗礁へ向かってる所だ。
最初こそは部屋でのんびりしていたがだんだん飽きてきて外に出てみたのだけど。

(なんかなぁ…)

一人きりだと余計に自分が此処にいるのか余計に考えてしまう。



思考が出口のない迷路に捕われる。



は元々この世界にはいない、いわばイレギュラーな存在。



だけど此処にいることでどんな不具合が生じるかわからない。



どこまで関わっていいのか判らない。



なまじ、物語を知っているから、尚更。





(…やめよ。また深みにはまりそう)
ふるふると首を振ることで、は思考を中断させた。
――と、ふとこちらにくる気配が一つ。
振り向くとリオンだった。
『なにをしてたんですか?』
シャルの声が響く。
「ぼーっと海見てたけど、それが?」
『じーっと思いつめた様に海見つめてたからどうしたのかなって』
「…。見てたんだ…」
というか、そんな深刻そうな顔してたんだ私…。
「で?リオンはどうしてここに?」
「…一人になれる所を探していただけだ」
「部屋なら一人でいられると思うけどな−…」
の事、心配してたんですよ。坊ちゃんは』
「おいシャル!」
「へ?」
ちょっとまて。私何か心配されることしたっけ?
「シャル黙れ(怒)」
がんっと痛そうな音がする。
『いたっ。ひどいですよ坊ちゃん!せっかく親切心でやってあげたのにっ』
「余計なことをするな(怒)」
『わーんっ。ひどいですよっ!ねっもそう思いますよね!?』
「え、あの、シャル?」
そこで私にふるか?普通。
返答に困っていると、がこんっと鈍い音がし、それまで騒いでいたシャルが黙った。
「コイツの言うことは適当に流せ」
「あ−…うん。そうする…(大丈夫なのかな、コアクリスタル…)」
ちなみにシャルはその後すぐに復活しました。




魔の暗礁が近づくにつれて、船員達の表情がこわばっていくのがわかった。
「なんか嫌な雲行きになってきたわよ」
パタパタと外の様子をみてきたルーティが言う。
「どんななのかな。魔の暗礁って」
は怖くないのか?」
「どちらかというと好奇心の方が強いかな」
「なに?スタンてば怖いの?」
「そんなんじゃないけどさ…」
ルーティのからかいにスタンが抗議する。

バタンッ

「ば、バケモノがっ…!」
物凄い音をたてて船員が駆け込んできたので、達は急いで甲板へ行った。
「なんだ、こいつはっ!」
「うわ、すっごいね−」
こんなに大きいとは思わなかった。とが感嘆する。
船の前には巨大な海竜の姿。
「関心してる場合じゃないでしょう!?ってフィリア、危ないわよ!?」
「声が、聞こえますわ…」
「ちょっと、なに言ってんのよ!」
フィリアがまるで何かに誘われるように海竜のほうへ近づく。
スタンが止めようとすると、その横をがすり抜けた。
「おい、もっ!」
トンッと軽い音をたて、海竜の目の前に行く。
「大丈夫だよスタン。この子に殺気は感じられないから」
しばらく乗せてもらうね。とが言うと言葉がわかったのか海竜は小さく鳴いた。
「リオンはどうするの?」
「…おい、一時間で戻らなかったら先に行け、いいな?」
船長が了承すると、リオンも飛び移り、海竜は海に潜っていった。




「ここは…?」
「海に沈んだ街のようね」
海竜から下りるとフィリアはこっちです。と奥に進んでいく。


「此処が中核か?」
『よく来たの。フィリア・フィリス』
奥の方から声がした。
正確には頭に響くように。
「だ、誰ですの?」
『その声は!』
『クレメンテ老じゃん』
『なんじゃお前らか。ムードぶち壊しだのう』
「ソーディアン?!」
『ワシの名はクレメンテ。正真正銘のソーディアンじゃ』
おおよその見当はついておる。とクレメンテが言った。
『じゃからワシはフィリアという新たな使い手を選んだのじゃ』
「私にそんな力は…」
『ワシの声が聞こえるなら大丈夫じゃ。おぬしには眠れる才能があったのじゃよ』
それに、とクレメンテが続ける。
『やっぱり使い手は若くて美人の女の子の方がいいからのぉ』
ぅわぁ−…。と思わず呆れてが呟き、こんのスケベジジイ。とルーティもうめくように声をもらした。
『おおっとこれは失言じゃったわい』
『クレメンテ…あなたという人は』
アトワイトが呆れた目でクレメンテを見やる。 『そんな目で見んでくれ。ほんの茶目っ気じゃよ』
「ねぇ、フィリア。本当にあんなののマスターになるつもり?」
ルーティがクレメンテを指さしてフィリアに聞く。
「仮にも剣とはいえただのスケベじじいじゃない。考え直すなら今のうちじゃない?」
「…クレメンテは私に力をくれたのです」
「でもそれとこれとは…」
「ルーティさんは強い力を持ってらっしゃるから分からないでしょう。私、皆さんの足手まといにはなりたくないんです」
「全く。これは何を言っても無駄みたいね」
「クレメンテ、私はあなたを受け入れます」
『学ばねばならん事も多いががんばるのじゃぞ』
「はい」



「そういえばこれでソーディアンは4本目になったんだね」
思い出した様にが呟いた。
『ほぅ。お主にもワシ等の声が聞こえるのか』
「そうだけど…」
「うそっ、聞いてないわよ!」
ルーティが振り返る。
「おい、言っていなかったのか?」
「あんとき結構ドタバタしてたからなぁ…」
そいや言ってないかも。
ごめんね。とは苦笑した。
「ってちょっとまってよ。なんでリオンは知ってんのよ」
「貴様には関係ないだろう」
「なんですって−!?」
「ルーティ、落ち着けって」
「船に戻ったら話すから。それまで待って」
口論になりかけたところをが止める。
(にしても、何でこう二人は衝突するかなぁ・・・)
「とりあえず早く海竜の所までもどらないと。ね?」
「…そうね。船に先行かれちゃ困るし」
後で詳しく教えなさいよ?とルーティがため息と共に言った。







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