ひらひら、ひらひらと薄桃色の花弁が舞う。
「……久しぶりかもしれないな。ちゃんと見たの」
桜の木を見上げながらぽつりとは呟いた。
夢を、見たのだ。大切な人を失う夢を。
「…?」
「ん…何?ルーティ」
朝になり目を覚ますと、ルーティが私の顔を覗き込んでいた。
「あんた、涙の跡が残ってるわよ?」
「え…」
そっと触ると既に乾いてはいたが、確かに泣いた跡があった。
「大丈夫。なんでもないよ」
「そう?」
ならいいんだけど。とルーティが離れた。それが今朝のこと。
その後、少し散歩してくるとイレーヌに告げては外に出て来たのだ。
朝靄の中、歩きながら久しぶりに見たとそっと苦笑した。
あの人がいなくなって随分経ったけれど。
けれど、未だに私はそれを引きずっている事に気付いて。
私は、捕われているのだろうか……あの時の事から。
(それでも…忘れる事なんて、出来ない。忘れては、いけないんだ)
「…?」
「あ、リオン。早いね」
それとも、もうそんな時間?と聞くとああ。と肯定された。
「桜を見てたのか?」
「うん。凄く綺麗だったから」
そう言ってもう一度見上げる。
『は桜好きなの?』
「好きだけど少し嫌い」
「なんだそれは」
「秘密ー」
さーてと、早く戻らないとねー。と歩きだす。
リオンが何か言いかけたがどうでもいい事だったらしく、何も言わず私を追い抜いていった。
「分かってはいると思うけど、無茶はしないでね」
イレーヌが私達を見回して言う。
作戦はいたって簡単。あえて自らを囮にし、海賊船を壊滅させるというもの。
最初、イレーヌは反対したがリオンの押しでこれに決まったのだ。
「4隻…多いわねぇ」
まんまと罠にかかった敵を見てルーティがぼやく。
「やるしかないだろ」
「楽しみだな!」
「マリー…それはちょっと違うような…」
「とにかく、行くぞ!」
リオンの声に、皆が走り出した。
ガキィンと金属がかちあう音がする。
「ああもうっ次から次へとっ」
邪魔よっとルーティが叫ぶ。
「本当っにね!」
敵の攻撃をは双剣で受け止め、直ぐさま懐に潜り切りつける。
返り血を浴びるが、このさい気にしていられない。
「きゃあ!」
「フィリア、大丈夫っ?」
アップルグミをフィリアに渡す。
「ええ、ありがとうございます。さん」
「けどどうするんだよ!キリがないぞ!」
前の方でスタンが叫ぶ。
(…しょうがない。あれ使ってみるかな)
チャキリとが構えを変えた。
「スタンっ、リオンっ、一端下がって!」
「何をする気だ」
「ちょっと試してみたい事があってねっ」
二人が下がる、と同時にが駆け出した。
すっと目を細め、視界に敵をおさめる。
「紅ノ一式・風花っ!」
ザンッと風が薙ぎ、鮮血が散る。
ズゥンッと数体の敵が倒れた。
「…ふぅ。一応、成功、かな」
「何をしたんだ?」
「本当はもう少し長い刀でやる技なんだ。今の」
だから加減が分からないんだよねえ。とぼやく。
「だから今まで?」
「うん。出来るかどうか判らなかったから」
けれど、そんな事も言ってられなくなったし。
「今の内に早く駆け抜けるわよっ」
「わかった!」
敵の隙をついて一気に駆け抜けた。
襲ってくるものは牽制し、できるだけ戦闘にならないようにしながら奥へ奥へと走る。
目指すはバティスタのいる場所だ。
バンッ
「バティスタっ!」
部屋の奥にバティスタの姿があった。
「フィリアか。お前が追ってくるとはな!」
「グレバムはどこなの!?」
「さあな。お前達が勝ったら教えてやるよ」
それが戦闘の合図だった。
「はぁぁぁっ!」
何度も何度も武器がかちあい、火花が散る。
スタンとリオンはバティスタを集中的に叩く。
ルーティとフィリアはその援護。私とマリーは他の敵を相手にしている。
「あーもぅ、雑魚は引っ込んでろっつーの!」
が素早くクナイに持ち替え、呪文を唱えている敵に放つ。
呪文さえ完成させなければこっちのもの。敵の集中を欠かせてマリーが止めを刺す。
「完了っと」
「、言葉遣い悪くなってないか?」
「それは気にしちゃ駄目だよっマリー」
「そうなのか?」
「そういうもんだよ」
「ていうか2人共、終わったならこっちも手伝いなさいっ!」
「分かってるよっ、ルーティ」
ザクッと剣を引き抜き、スタン達の加勢に行く。
そして皆で一気にバティスタを叩いた。
最後にスタンの虎牙破斬でバティスタのHPを削り取り、相手が地に倒れる。
それにより、海賊騒ぎは無事に収まり、私達の船は港に戻ってきた。