「言っとくが、何をしたって無駄だぜ。なにしろ俺は何も知らないのだからな」
「本当に知らないかどいうかは直にわかる」



船から降りた後、イレーヌに頼んで部屋を借り、そこでバティスタの尋問が始まった。
リオンはマリーを呼び、あのティアラをバティスタに付け替える。
「何をつけやがった!」
「あのバカ女と同じものだ」
そう言いながらカチリとリオンがスイッチを押すと、音を立てて電流が走った。
「ぐあああっ」
見ていて思わず目を背けたくなる光景。
は視線を外したくなったが、手の平に爪をくいこませる事で抗った。
一度スイッチを切り、リオンがこちらを振り返る。そして一言。
「お前達は街を見物でもしてろ」
「はいはい分かったわよ。ほら、マリーも!」
リオンの言葉にルーティがマリーを連れてさっさと部屋から出て行き、その後にイレーヌに誘われてスタンが街に行った。
フィリアは此処に残るそうだ。
さんはどうしますか?」
「私は…とりあえず部屋にいるよ」
少し疲れたから。と扉を開けながら言う。
「分かりましたわ」
「うん。…リオン」
「何だ」
「…あーうん。何でもない。無茶しないように」


パタン

ドアを閉めて、はそのままずるずるとそこにへたりこんでしまった。
知らず知らず溜めていた息を吐き出す。

(何も、できない)

スイッチを入れる時、微かに顔を歪めるのを見てしまった。

けれど、私はかける言葉が見つからなかった。




傷つく様子を見ても、手を差し延べられない。




それが、お節介だと解っていても。有り触れた言葉すらかけれない。




それは、只のキャラではなく、一人の人として見ているという事。




そして、別の感情も芽生えていた事も。




その事に気付き、思わず苦笑が漏れる。

(いつから…じゃないか。多分最初からだ)




こちらに喚ばれて、彼等に初めて会った時から。




画面越しではなくなった時から。




少しでも側にいたいと思っている私がいる。




話していたいと思っている私がいる。




それが叶わない事だと知っていても。




気付いてしまった。







(……どうしよう。帰り辛いかも)
自分の気持ちに気付いてしまった。今会えば挙動不審になること間違いないだろう。
なのでは誰にも言わず外に出て来てしまったのだ。
先程ちらりとイレーヌさんとスタンを見つけた。
声をかけようかとも思ったのだが、その後ろにルーティ達が尾行してたので敢えて声をかけなかった。
何となしに街の中を歩いていると、どこからか軽快な音楽が聞こえてきた。
(一体どこから…)
耳を澄ますと、どうやら下の方から聞こえてくるのがわかった。
近くに行くにつれて声の主がはっきりと見えてきた。
聞く者を引き付ける澄んだ優しい歌声に、何故か心が静まる。
ずっと聞いていたい、そんな声だった。
思わず聞き惚れていると、はた。と歌っていた女性と目が合いにこりと笑いかけられた。
「はい今日はここまでーっ」
「えーっなんでさ!」
「そうだよ!ルシオラの歌もっと聞いていたい!」
「ごめんねー?あたしにも用があるからさ」
周りで聞いていた子供達がまた明日だからね!と口々に言い、女性から離れていく。
「いいーっ!絶対だかんね!」
「ハイハイ」
ひらひらと手を振り女性がこちらに視線を向ける。
「こんにちは」
「はいこんにちはー。さっきから聞いててくれてたよね」
「あ、はい。凄くよかったです」
「ありがと。あんな下手な曲しか歌えないけど」
「そんな事ないです。本当に、よかったです」
がそう言うと、女性はありがとね。とからから笑った。
(歌っている時と雰囲気が変わるなあ)
もちろん、いい意味でだけど。
「ああ、自己紹介が遅れたね。あたしはルシオラ」
です」
「んじゃちゃん、アイスでも食べに行こっか」
「…はい?」
(唐突な人だ…)
「立ち話もなんだし、どこかで話そうや」
それとも、嫌?
そう言われて断れるはずも無く、ルシオラに引きずられるように歩きだした。



「はい、アイス 」
「あ、どもです」
ルシオラからアイスを貰う。
「おどろいたっしょ。あんなとこで演奏してて」
「はい。…子供が好きなんですか?」
「基本的に好きだねー、まぁ金持ちの生意気なガキは嫌いだけどさっ(キパ)」
その物言いに思わず笑いが込み上げる。
「やっと笑ってくれたねぇー」
「…え」
どうしてって顔してるねー。と覗き込みながらルシオラが言う。
その通りだったのでこくこくとは頷いた。
「んー、少し沈んでたみたいだったからさ」
かどまあよかったよかった。とルシオラが笑う。
「何を悩んでたかはちゃんじゃないから判らない。けど、今すぐに答を出さなくてもいいものなら気長に構えなよ」
でないと潰れちゃうよ?
その言葉にただただは目を見開く。
「なんで…」
「吟遊詩人甘く見るなよ?あたしはこれでも長いからねー。解るんだよ」
…顔に出てました?
そらもーばっちりと。
うわぁー…。





桜を見上げながらはそこに佇んでいた。
「気長に…か」
先程別れたルシオラの言葉が甦る。それも一つの手だよ。と彼女は笑って言っていた。

(私は、どうしたい?)

「こんな所にいたのか」
「へ?」
突然横から声をかけられ、驚いて振り返る。
「え……ええっ?!リオンっ?嘘、何で此処に!?」
予想外の人物の登場には心臓が止まりかけた。
が部屋にいないと言ってきたから探しに来たんだ」
『本当、何処にいったかと思ったよー』
「ごめんね、これから気をつける。でもよく此処が分かったね」
「こないだもいただろうが」
「こないだ?ああ、あの時か」
そういえばそうだった。と思い出すに呆れるリオン。
「リオンが此処にいるって事は、終わったんだ?」
「結局何も聞き出せなかったがな」
奴を泳がせるさ。と言った。
「…どうやって居場所分かるの?」
「あのティアラには発信機もついているから心配ない」
成る程そういうことか。
「さっさと戻るぞ」
ほら、と手を差し出され反射的に応じる。
「これは…?」
「お前の場合、すぐふらふらといなくなるからな」
「私は子供ですか」
なんか釈然としない。とぼやきながらリオンに手を引かれ歩きだす。





今は、このままでいい。と思う。



リオンの後姿を眺めながらは思う。
この感情が本物かなんてまだ判らない。だから、あの人の言う通り、気長に考えることにした。
「何笑っているんだ」
「別にー?」





今はまだ、心の奥底にしまい込んでおこう。