…朝から部屋の外が騒がしい。何事だろうと思い、ドアを開けると皆が集まっていた。
「…どうしたの?」
「あっ!」
バティスタが逃げたのよ!とルーティが半ば叫ぶように言ってきた。どうやらその事で揉めていたらしい。
「バティスタ?あーそれなら…」
「朝から騒々しいぞ」
「あ、リオン。バティスタ、やっと逃げたって」
おはよう。と軽く手を上げながらは反対側から来たリオンに言う。そして皆が静まっていることに
気づき、見回す。
「どうかした?」
こてん。と軽く首を傾げると、はっとしてルーティが詰め寄ってきた。
「”やっと”…?ちょっとどういう事よそれ!」
「どうもこうも、バティスタをわざと逃がしただけだ」
「もしかして…グレバムの居場所を突き止める為ですか?」
フィリアの問いに肯定するリオン。
「それで、バティスタは何処に行ったんだ?」
「おそらくアクアヴェイルだろう」
「アクアヴェイル?」







その後、私達はイレーヌさんに頼み(かなり渋られたけど)どうにか船を出してもらえる事になった。

「まさか泳がなくちゃいけないとは思わなかったけどね…」
寒中水泳とかじゃないのでさほど冷たくはなかったが、体力は無茶苦茶消費した。
「しょうがないだろ。オベロン社の船だったからこそ近くまで来れたんだ」
「イレーヌさんに感謝ですわね」
「本当にね」
髪から滴り落ちる水を拭きながらこれからの事を確認しあう。
「ひとまず…モリュウ領に行くんだよな?」
「そうだ」
「さっき聞いたけど、船は出てないみたいよ」
「となると…やっぱり他の道探さないとね。別れて探す?」
そんなことを話していると……
「お前さん達、モリュウへ行きたいのかい?」
突然かけられた言葉に皆が振り向く。
「お爺さん、知ってるの?」
「知ってるともさ」

話によれば、シデンとモリュウを繋ぐ洞窟があるらしい。そしてそこに巣くうモンスターのことも。
お爺さんにお礼を言い、その洞窟へと向かう。


「っ、すごい…」
入るなりが感嘆の声をあげる。
おそらく地下水なのだろう。それが岩の隙間から流れ、ちょっとした棚の様になっていた。これが自然
の力によって造られたのだからが感嘆するのも無理はない。
「此処を抜ければモリュウなんだよな」
「あのじじいの話が本当だったらね」
「ルーティさん!」
「まあともかく、奥に進もう?」
「ねえ、
「ん、何?」
「あんた、やけに嬉しそうじゃない」
そうなのだ。この洞窟に入ってからは何故か機嫌がよい。
「んー。こういう自然の力で生み出されたもの、好きなんだ」
そう言って岩壁に触れる。
「長い長い年月をかけてこんな風になったんだよ?すごいとしか言えないよ」


それこそ、私達の気が遠くなる程の間。


「ヒトはそれを忘れていく。忘れて…破壊を繰り返す。けれどその先は…何が待っているんだろうね」



ヒトは力を求める。


ある者は支配する為に。


またある者は強くなる為に。



「本当、なんでなんだろうね…」
…?」
「ああ、ごめん。気にしないで?」
そう言って先に進む。スタン達もその後に続き、ルーティだけが動かないでいた。それにマリーが気付き、
声をかける。
「ルーティ、どうかしたのか?」
マリーの言葉にルーティは緩く首を横に振る。
「…何でもないわ。行きましょ」







(気のせいよ…気のせいに決まっているわ)






一瞬、の姿が薄れた様に見えたなど…。




「ルーティ、行こうー?」
「分かってるわよ!」
そう返して、もう一度ルーティは緩く首を振り、言いようのない不安を払って皆の元へと駆け出した。