ざくざくと雪に足跡をつけながら森を抜ける。時間は少しかかったがあと一時間もすれば 街に着きそうだ。先ほどの晶術のおかげで二人の傷はすっかり癒えていた。モンスターと遭遇しないように気をつけながらが 崖から落ちたあとの事を簡単に説明する。
「で、紆余曲折してコレと契約したと?」
「…まぁ要約すれば」
『コレって言うな。ぼくはセドゥだ』
「フン。お前はコレで充分だろ」
『…マスター、コイツの抹殺許可だして』
「二人共、戦闘態勢とらないで。そしてさりげに物騒なこと言わないの、セドゥ」
『はぁい』
「…」
『なんか保母さんみたいですね
「言わないで…」
シャルがちゃかすのをうんざりした様にが応える。何を隠そう二人の口論はこれ が一回ではない。先程リオンに話をしている時も度々あったのだ。その度にが諌めているわけなのだが。
(二人共短気というかなんというか…)
似た者同士だとつくづく思う。その事を二人に告げたら全否定されたが。
(でもできることなら私を巻き込まないでほしい…)
また頭上で繰り広げ始めた口論を止める為、は何も言わず息を吸い込んだ。



「つ、疲れた……」
あの後、どうにか街にも着きスタン達と合流することができた。どうやらウッドロウはま だ目を覚まさないらしい。与えられた部屋に入るなりはぼふっとベットに倒れ込 んでしまった。
『大丈夫?マスター』
「…誰のせいか判っているのかな?」
ふよふよと浮かぶ精霊を見上げる。
『う…。けどアイツも悪いんだよ!?すぐ突っ掛かるし!』
「(どっちもどっちかと…)セドゥ…リオンと仲良くなれる確率は?」
ゼロ
「さいですか…」
セドゥの言葉に一気に身体の力が抜ける。そしてがなんの気無しに目を閉じ、再び開けると白い 空間が目の前に広がっていた。










「此処…あの時の……」



それはカルバレイスで見た空間と似ていた。どこまでもどこまでも白い世界。自分と言う存在さえ掻き消えるような―…そんな場所。
「何で私、また此処に…」
「―それは私がお話します」
りん、と鈴の鳴るような声が後ろから響く。ばっとが後ろを振り返ると、
「エクスフィト……」
が彼女の名を呟くとエクスフィトはどこか悲しそうに微笑んだ。
「貴女と話すのはこれで2度目ですね」
「エクスフィト?」
「単刀直入に言います。…貴女に残された時間は、余りないのです」
「…どういう、事?」
「私が貴女をこちらの世界に呼んだ事は言いましたよね?」
こくりと頷く。
「けれど貴女を、を呼んだ際に他の時間枠から干渉がおこったんです」
「干渉?」
「はい…。そのせいで貴女は長くは存在していることが出来ないのです」
本当はもっと早く伝えられればよかったのですけれど…とエクスフィトは目を伏せる。
「ですから、そうなる前にを元の世界に戻させてもらいます」
それを伝えたかったのだとエクスフィトが言う。
「ねえ…無理に存在し続けようとするとどうなるの?」
「っ…の魂が……消滅します」


(私が…消滅する…?)



それは酷く現実味のない言葉だった。けれど判った事が一つある。
彼等といられるのは、あと少し。


「………、…!」
何処からか声が聞こえてきた。
「ルーティ…?」
「どうやら今日はここまでですね」
白い空間に溶けていく様にエクスフィトの姿が薄れていく。その姿に慌てては疑 問に思っていた事を口にする。
「エクスフィト、最後に一つだけ。…貴女は一体………」

「―私はエクスフィト。この世界を造りし者であり見守りし者」
エクスフィトは慈しむ様にを見やる。


、この先を決めるのは貴女です…」

―どうか、彼をお願いします―



その瞬間光が溢れは意識を失い、現実へと浮かび上がった。
っ起きなさい!」
「ルーティ…」
「ウッドロウの意識が戻ったわ。今すぐ来れる?」
「分かった。行くよ」
じゃあ先に行ってるわね。とルーティが部屋から出て行く。 いまだぼんやりとしている思考を頭を振ることで拡散させる。先程まで起こっていたことが夢のような感覚さえある。

(けど…あれは夢じゃない)

このまま居続ければ魂の方が壊れてしまうという事実。彼女が言うのだから本当なのだろう。

全てが、終焉へと近づいている。

(もうすぐ、別れが来る。私にとっても、皆にとっても…)












その時まで、私はこの世界に存在していることが出来るだろうか―?