神の眼を奪還し、私達はダリルシェイドへ戻ってきた。私達の旅はこれで終わり。 セインガルド王に謁見し、今は各自思い思いに過ごしている。神の眼は今は一時的に城に 安置されていた。 スタンは村に、ルーティは孤児院に、フィリアは神殿へ、ウッドロウは国に戻り再建をす るらしい。 そして、私は………… 「」 一人、ぼーっと窓の外を眺めていたらリオンが声をかけてきた。振り返るとこんな所にい たのか。と呆れた表情をしている。 「何?」 「フィリアがお前の事を探していたぞ」 その言葉にああ。と思い当たるものがあり、もう少ししたら行こうと思考する。今はまだ 此処にいたかった。 「わかった。後で行くよ」 「……お前は…どうするんだ?」 「え?」 「この後、お前はどうするんだ」 「そうだな…フィリアと一緒に行くよ」 「何故だ?」 「識りたいから。色々と」 あそこなら知識の塔もあるしと呟く。 「そうか」 「うん。…あ、そうだ」 「?」 「これ、預かっていてくれる?」 そう言っていつも身につけていたブレスレットを外す。小さな蒼い石がはめ込まれている もので、私にとって大切な物だ。 「なんで僕なんだ」 「深い意味はないよ。ただリオンに持っていてほしいだけ」 次に会えた時に返してくれればいいよ。と言い添えてリオンに渡した。 「会えないという可能性は含まれないのか?」 「大丈夫だよ。軽く呪っておいたから」 『、呪ったら坊ちゃんが祟られちゃうじゃないですか』 「やだなぁ。言っておくけど冗談だよ?」 「全くお前は…」 こめかみを押さえ溜息をつくリオンに流石に呪術系統は私の分野じゃないよと笑って返 す。 (死なないでほしい) 口には出さず心のなかで呟く。 死なないでほしい。死んでほしくない。 もう大切な人を失うのは嫌だから。 けれど選ぶのは彼自身。 だから―――― そんな事を思っているとリオンが手を出せと言ってきた。言われるまま手をだすと、リオ ンがいつも身につけていた筈のイヤリングを渡された。 「リオン?」 「別に、深い意味はない」 「……いいの?」 「何が」 「私が預かっていて」 「僕だけ預かるのも癪だからな」 『……素直に持っていてほしいと言えばいいのに』 「やかましい」 ガンッとコアクリスタルが叩かれシャルが沈黙する。そんな様子を見てやっぱり変わらな いなぁと微笑み、片方だけのイヤリングをそっと手で包みこんだ。 「………それと」 「ん?」 「それと、エミリオでいい」 「え…」 「僕の本当の名前だ」 「…そっか。ありがとう、エミリオ」 じゃあそろそろ行くね。と窓際から離れる。 「また今度ね」 「…ああ」 今度、なんてない。 自分の言葉に泣き出しそうになる。 分かってる。分かっているのに。 次に会うのは、 リオンと対峙する時なのだから。 の後ろ姿を見送り、視界から消え去るとリオンは先程まで握りしめていた手を ゆっくりと開き、ソレを見た。リオンの手の中で蒼い石が煌めく。 『坊ちゃん、よかったんですか?』 「何が」 『を引き止めなくて』 「引き止めてなんになるんだ」 これからあの場所へ行かなくてはならないというのに。 そう呟くリオンにシャルは心の中で思う。どうして二人はこうもすれ違いばかりなのだろ うと。 リオンが心の何処かでの事を受け入れている事をシャルは知っている。そ うでなければ本当の名前を教える事はなかったはずだから。イヤリングもまた然りだ。 「お前は…」 リオンの言葉にシャルの思考は途切れ外界に意識が向かう。リオンの目の前には が契約したという大気の精霊が浮かんでいたのだ。 「僕に何の用だ?」 『単刀直入に言う。…ぼくはあんたが嫌いだ』 そう言って、きっとリオンを睨む。 『マスターを悲しませるから。嫌いだ』 「……」 『けど、だからこそ、あんたに忠告してあげる』 最初で最後のね。 そう言って囁いた。 『本当に大切なものを、見誤ってはいけないよ』 「なんだと?」 『ぼくが言いたいのはそれだけだ』 後は自分で考えてみれば? そう言ってふっと目の前から消える。後には茫然と佇むリオンの姿だけが残った。 |