−ファンダリア− 王座の前に一人の少女が衛兵に連れられて来た。少女はウッドロウの姿をみとめると軽く微笑し礼をする。 「お久しぶりです。ウッドロウ王」 「君じゃないか。どうしたんだ?一体」 ウッドロウの目の前にいる少女はついこのあいだまで共に旅をした仲間の一人だった。今はフィリアと共にストレイライズ神殿にいる筈だ。だが何故此処に? その考えを読み取るかの様に、が今回来た理由を告げる。それは… 「ソーディアンマスターの召集?」 「ええ、詳しい事は後で話しますから」 そう告げるは無表情だ。 「ソーディアンマスター…。となるとスタン君達もか?」 「今、フィリアが迎えに。ルーティとは途中で落ち合うそうです」 「そうか…では我々も急がなくてはな」 「…では私は外で待っていますので」 一礼しては立ち去る。 「…何も、なければよいのだがな」 その呟きは少女には届く事はなく空気と共に消えた。 「遅いよ」 「…さっきと言葉遣いが違うようだが?」 「流石にタメ口は駄目でしょう。特に王座の前は」 「確かにそうだな」 は肩をすくめる。 「それで何故召集なんだい?」 「…神の眼がまた盗まれたの」 「まさか…」 「んで、1番近かった私とフィリアでこうやって迎えに来たというわけ」 「リオン君は?」 「神の眼が無くなるのと同時に行方不明」 「…まさかリオン君がか?」 「証拠も何もないからリオンかどうかはまだわからないよ」 「だが、今可能性が高いのは彼だ」 は無言で足を進める。 「君はリオン君が関わっていると思うか?」 「さあ?でもリオンの事は信じてるし」 「何故か聞いてもいいかな?」 「私達の知ってるリオンは、まー捻くれてるしルーティとは口喧嘩は絶えなかったし素直じゃなかったけど、不器用ながらも優しかったし。一緒に旅をして、知っているから」 そう。知っているから。 とにかく、とは続ける。 「私はリオンの事信じる。…多分スタンも同じ事言うと思うけどね」 「…確かに言いそうだな。彼は」 でしょう?と苦笑し、は再び歩き始めた。 その後スタン達とも合流し、神の眼が何処へ運ばれたかしらみ潰しに探していくと、今は使われていない社の工場へ運び込まれたという。 「ね、皆にお願いがあるんだけど」 船が出港してまもなく、ふと思いついたかのような声では仲間を見回して言った。 「何?」 「ちょっとソーディアンを貸してほしいんだ」 「ソーディアン?」 「うん。無理かな」 「別に構わないけど…」 「ありがと」 快く皆に貸してもらい部屋に戻るととソーディアン達だけになる。 「こうやって皆とちゃんと話すのは初めてかもね」 『そうね。思えばなかったかも』 「うん。あ、イクティノスは初めましてだよね」 『そうですね』 『で、話とはなんじゃ?』 クレメンテの言葉に軽く目を伏せ、覚悟を決める。 「うん。みんなには言っておこうと思って。…私ね、この世界の住人じゃないの」 『…今、なんて』 「要するに別の世界から喚ばれてこっちに来たの」 淡々とが言葉を紡ぐ。 『…記憶が』 「あ、ごめん。それ嘘」 『嘘?』 「うん。…結果的には騙したことになっちゃったな」 『…けど何故それを?』 「…私にはもう時間がないから」 『どういうことなの?』 「さっき別の世界から来たって言ったでしょ?……だからずっとはいられないんだって私を喚んだ人が話してくれた」 『もしこの世界に居続けると…?』 「私の魂の方が堪えられなくて消滅するって」 『そんな…』 アトワイトが絶句する。おそらく他の皆もそうだろう。息を呑むのが感覚でわかった。 「みんなには黙っておいてくれる?心配かけたくないから」 困ったように笑う。 「我が儘だってことはわかってるよ」 お願いできる? しばしの沈黙の後、渋るようにクレメンテが声を漏らした。 『…ま、いいじゃろ』 『クレメンテ!』 『の判断じゃ。わしらは何も言えんよ』 は心の中でごめんねと呟く。けれどどうしても伝えたかったのだ。 ソーディアン達を返して一人だけになる。 「……セドゥも聞いていたよね?」 『…聞いてた』 ぽつりと呟くと、ムスッとした表情でセドゥが現れる。 『マスターはこれでよかったの?』 「……決めた事だからね」 あの時、フィリアと呼び出しが来た時に選んだ。今更変えるつもりもないし後悔もない。 「それに元々、ディムロス達には話そうとは思っていたから」 『アイツの持ってる剣には話さなかったけどね』 「しかたないよ。時間がなかったから」 『本当に?』 木霊するようにセドゥの問いかけが部屋に、の心に響く。 『本当に、これでよかったの?』 「いいの」 『マスター…』 チャリ、と手の中で片方だけのイヤリングが音をたてる。 「いいの………これでいいの」 |