既に廃棄された筈のオベロン社の工場…スタン達が中に入ると微かな起動音が聞こえ、この工場が機能している事は明白だった。 奥へ奥へと進む程モンスターも増え、皆悪戦苦闘している。 「っ、しつこいなーもう」 攻撃を紙一重で避けつつ思考する。 (このままじゃ埒があかないな……) やはり強行突破しかないか。とは軽く溜息をつき、双剣を鞘に戻した。 「まずっ、また来たわよ!」 「早く行かなきゃいけないのに!」 ザンッ 「……え」 「?」 スタン達が剣を構える前に敵が地に伏せた。 素早く敵の間をすりぬけたの手には黒く細い糸。 「先、行くんでしょ?」 早く行こうとは皆をせき立てる。 「、今のは…」 「ジョニーに貰ったやつ」 こんなときに役立つとは思わなかったけど。と苦笑する。 会話をしながらも敵は次々と襲い掛かってくる。だがが腕を振るだけで皆、地面に縫い付けられたように倒れていく。 なので思ったより早く最深部にエレベーターを見つけ、皆でそれに乗り込んだ。 「ってこんなに強かったんだ…」 「ん?別に強くなんかないよ。今回は仕方ないから」 「…君、何を焦っているんだ?」 突然ウッドロウに問われる。彼の言葉にきょとんとした顔で首を傾げた。 「…私、焦ってるように見えた?」 「少なくとも私はそう感じたよ」 「焦ってる…か。そうだね。そうかもしれない。…あまり、時間がないから」 「それってどういう…」 「着いたみたいだよ」 スタンが聞くのを遮ってが振り向く。 「此処は…洞窟?」 スタン達の呟きにはその先にあるであろう事を思い無意識に服の裾を握りしめる。 滝の音が、いやに煩かった。 そして、私達は彼と再開する。 「リオン!」 「お前達か…」 「リオン、そこをどいてくれ!」 「リオン君、退きたまえ。君は事の重大さがわかっていない!」 「分かっていないのはお前達の方だ」 「なに!?」 「お前等は利用されたんだよ。グレバムから神の眼を奪う為にな」 もっとも、アイツからしてみれば僕でさえ使い捨ての駒の一つにすぎないがな。とリオンは自嘲する。 「だったら、なんであいつの味方なんかしてんのよ!」 「アイツの為なんかじゃない。大切な人を守るためだ」 その言葉に、小さな痛みがはしる。 「お前には分からないさ。ヒューゴに捨てられた、お前には」 「なんですって…」 まだ分からないのか?そう問いかけるリオンの声が洞窟内に響く。 「僕はヒューゴの息子だ。そしてこの名前はあいつが名付けた。本当の名前は、エミリオ・カトレット」 「まさか…」 「リオンとルーティは…兄弟、なのか?」 「さて、優しいお姉さん」 それでも僕を殺せるかい? 囁く様に紡がれた言葉はとても残酷だった。 「僕は殺せる。大切な者を守る為ならば」 「、このっ……!」 スタンの剣がリオンに向けられ、ソーディアン同士が火花を散った。 何度も剣は交差し、離れる。 剣の軌跡が薄暗い洞窟の中で鮮やかに舞う。 無限にも続く感覚。実際にはほんの数分の出来事だったのかもしれない。 スタンの剣がリオンに向かって、貫か れ――――――――――――――― 「―そこまで」 その言葉と同時にキィンッと甲高い音を立てた。 「なっ…」 「!?」 「駄目だよ二人共。それ以上は駄目」 ギリギリと剣を押さえ付けながらは淡々と紡ぐ。 「そんな事しても、無意味なだけだよ?」 ね?と可愛いらしく首を傾げながらディムロスとシャルを弾いた。 「何で、…」 は、諦めたような、けれど何処か強い意志を宿しながら言葉を紡ぐ。 「私はただ、傷ついてほしくないだけ。私は、皆の事が好きだから」 「…?」 「だからこれは最後の我が儘。…どちらも選べなかった私の、ね」 寂しそうに笑うと、ぶわり、との足元が光を帯び始めた。そして身体中を包み、光は徐々に形作り、光の翼となる。 「!?」 「っ………そっか。時間切れか」 「!身体が、透けて……!」 スタンが驚きの声を出す。 見るとの足が、手が、髪がすぅっと光と共に消えていく。 「最後まで一緒にいたかったけど、無理みたいだね。これじゃあ」 「ちょっと、何言ってるのよ!」 ルーティの叫びにただただ悲しそうには微笑むだけ。 「ごめんね、リオン。皆…」 結局、君を守れなかった。中途半端なのがとてつもなく悔しい。 「本当にごめ…っ」 つぅっと涙が頬を伝う。 本当は変える事もできたかもしれない。 救う事も出来たかもしれない。 けれど私は選ばない事を選んだ。 彼の意思を。 未来を。 「行くな…っ、!」 ”本当に大切なものを、見誤ってはいけないよ” リオンの頭の中で大気の精の言葉が蘇る。 思わずに触れようと、し て…。 「さようなら…」 「っ!」 伸ばした手は空を切り、は…………光と共に、目の前から姿を消した。 修正日 06/12/1 |