「え、えとですね。聞いてもよろしいでしょうかイレーヌさん」 じりじりと後退しつつ目の前にいるイレーヌに問う。 「あら、なにかしら?」 「その数々の服はもしかして……」 つうっと冷汗が流れる。 こんな時ばかり当たってしまう己の勘が恨めしい。 案の定、フイッツガルド支部の責任者は艶やかに笑った。 「もちろん。ちゃんで遊ぶためよv」 「……逃げられないんですね(泣)」 、イレーヌに捕獲されました。(ぇ) -A volte... - 「…何をしているんだお前等は」 かちゃりと扉が開き、振り向くとリオンが呆れた様にこちらを見ていた。 「あらリオン君。部屋に入るときはノックをしなさいといつも言っているでしょう?」 イレーヌさんの背後からゴゴゴッと地響きのような音が聞こえるのは気のせいだと思いたい。 「イレーヌさん…黒い陽炎が出てますよ(というかリオンが固まってる…)」 「あらやだ、いっけない。つい」 つい、で済ます気ですか貴女は。 気にしちゃ駄目よv ……ハイ。 「で、何をしてたんだ(呆)」 「ちゃんでファッションショーv」 そう、嬉しそうに言うイレーヌとやや疲れ気味な。 『わーっ、わーっ!すっごいかわいいよ!!もうお嫁に来て欲しいくら…がっっ。って何するんですか坊ちゃんーーー!』 「少しは黙ってろシャル」 『黙りませんもーんっ。坊ちゃんだってかわいいと思ってるくせにーっ』 「なっ、ボクは別に…」 「そんなことないと思うんだけどねー。私的には」 そう言って首を傾げる。 薄い桃色のワンピースの上に柔らかいクリーム色のボレロ。そしての容姿も合わさってシャルが絶賛するのも無理はな い。 もっとも、本人は否定しているが。 「かわいいでしょう?ちゃんっ。やっぱり女の子は良いわねーっ」 それを見てなんとなく察したのだろう。…そして己にかかる災いの予感も。 「だったら僕はこれで−…「逃がさないわよvリオン君」 ガシッ 「な、何をするんだ、イレーヌっ」 「貴方も参加するのよ?」 今度はリオンに狙いを定めたらしい。ぐぐぐっと強く肩を掴まれてしまった。 「くっ、おい!っ!」 「わ。桜きれー」 「おいっ(怒)」 『見捨てる気満々ですねー』 イレーヌがリオンに構っている隙に、はカタリと部屋の窓を開けた。 ふわり、と温かい風が入ってきての髪を揺らす。 そしてにっこりとリオンに向かって一言。 「じゃ、頑張ってリオン」 ひょい 「後よろしくーっ」 「おいっ!?」 ひらりと飛び降りるを見て、リオンは慌てて窓際に駆け寄る。 とんっ 軽い音を立て着地し、そのまま行方をくらます。 『凄い!ここ2階なのに』 「あら。逃げられちゃったわね」 「感心してる場合か!」 「んーしょうがないわね。リオン君」 「…何だ」 「ちゃんを連れて帰ってきなさい(にっこり)」 「ちょっとまて。何で僕が!」 「春って変質者が多いのよねぇ。ちゃんかわいいし?危ないわよねぇ」 ほぅ、と溜息をつくイレーヌ。 「なら武器持っているだろうが」 「残念。武器は此処にあるもの」 最後の抵抗も空しく、ほら。と見せてもらったのは明らかに彼女の双剣で。 「…行けばいいんだろう。行けば」 結局リオンが折れたのだった。 「先に言っておくけれど、ちゃん連れて帰ってくるまで屋敷の中には入れさせないからv」 頑張ってらっしゃいvとリオンは半ば強引に外に出されてしまった。 『いないですねえ』 「全く、何処に行ったんだ」 どうしようもないのでを探すリオン。 20分後。 『見つからないですねえ』 「…………」 1時間後。 「何処に行ったんだあいつは…!」 『ほとんど探し回ったはずなんですけどね。移動してるのかな?』 「僕が近くに行くと。か?」 『だったら有り得そうですよねー』 気配隠して動くの得意ですし。とシャルが言う。 ――――と ”…−思いが全てを変えることが出来るなら−” どこからか歌が風にのって聞こえてきた。 『坊ちゃん、この声……』 「…か?」 聞こえてくる歌をたよりに声のする方へ向かう。 ”−今までのことも、無意味なんかじゃないよね?” 歌っていたのはやはりだった。 知らない女性が伴奏し、が歌う。周りにはちょっとした輪ができていた。 その歌声に、姿に、リオンはしばし見とれる。 高く澄んだ声とゆったりとしたテンポで歌は続いていく。 ”ねえ、どうかいなくならないで 君を想ってくれる人はいるんだよ? ねえ、どうか気付いて 大切なものを、失ってから気付くのではなくて 寂しいときは泣いていいから 辛いときはそばにいるから 空を見上げて 風を感じて 水鏡に映る自分はどんな表情? 歯車は止まることを知らないけれど 思いなら伝えられるから 波紋のように、未来へと−” 歌が終わり、拍手に包まれた。 は照れた様に軽くお辞儀をし、女性と何かを話していたが、こちらに気付きぱたぱたと駆けて来た。 「あ、リオン」 「…まさかこんな所にいたとはな」 「此処に来る前は歩き回ってたけどね」 やっぱりか。 あははと笑う。 『にしても歌上手なんだね!』 「え、そんな事ないって」 『上手だったよ!そうですよねっ坊ちゃん!』 「…下手ではなかったな」 『何言ってるんですか!の歌声に聞き惚れてたの坊ちゃんじゃないですか』 「と、シャルは言ってるけど?」 「………」 『沈黙は肯定と解釈しますよ、坊ちゃん』 「…それより、お前武器を置いて行っただろう」 あからさまに話反らせましたね坊ちゃん…。 面白かったからいいよ。 ですねー。 「武器って…ああ汞邑?でも何でリオンが?」 ちなみに汞邑とはの双剣の銘である。 「イレーヌに言われてきたんだ」 ふぅん。別によかったのに……。とが呟く。それにリオンが反応する。 「どういう事だそれは」 「だってあるもん。武器」 ……………………………………………………………………。 「何だと?」 「あるよ?武器」 ほら。とが手首を軽く捻ると、何処からか一本のクナイが現れた。 「…………」 「ね?」 『やられましたね。坊ちゃん』 「何処までもイレーヌさんの思惑通りだったね…」 確かに。 はあ、と溜息をはいて戻るぞ。とリオンは歩きだす。 「ああ、でも…」 が追い付き、ちょうど並ぶ様に歩く。 「…何だ」 「嬉しかったよ?来てくれて」 にこりとが笑い、リオンは自分の顔が微かに朱くなるのを感じた。 「僕はただイレーヌに言われただけだ」 「うん。それでも嬉しかった」 「……」 「…って何でそんなに速く歩きだすのさ」 少しは待とうよ、ねーっ。と後ろからが言うがそれすら無視。 しょうがないなーと漏らしながらリオンの後姿を追いかけた。 その後、イレーヌ宅に戻ると案の定リオンも被害に遭ったとかなかったとか。 その間はシャルとその様子を傍観してたとか。それはまた別の話。 |