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朝、起きてみると妙に身体がだるかった。 『風邪ね、フィエル』 「こんな時にひくなんて…不覚だわ」 「いい?安静にしてなさいよ?」 「わかってる-…」 ルーティとアトワイトに言われ渋々ベットに横になる。 (こんな事になるんだったら昨日夜更かしするんじゃなかった) はぅ。と溜息をつく。 ここ2、3日雪のせいでなかなか進むことができず、私達は宿屋で残り少ない休息をとっていた。 …どちらにせよ明日も雪らしいので大丈夫なのだけど。 カチャリと扉が開き、リオンが入ってきた。 「大丈夫か?」 「頭が痛い…。ところでリオン、なにしてんの」 ちゃっかり部屋に来てあまつさえ居座ろうとしてる。 「………」 『うるさいからって避難してきたんですけど、大丈夫ですか?』 だんまりを決め込むリオンに代わってシャルが口をだす。 その言葉を聴いてああ、確か2人部屋だったなぁとぼんやりした頭で思い出す。先程の騒音の発生源はスタンの部屋か。 「別にいてもいいけど…風邪うつらない?」 「そんなにやわじゃない」 「…ならいいけど」 ぽふんとベットに倒れる。 とはいえ、眠くないためベットにいてもつまらないというのが本音。 リオンは本を読んでいるし。 だからといってシャルやセドゥと話す気力もない。 どうしようかとふとフィエルは窓の外をみた。 「…ぁ」 また、雪が降ってきた。 ひらひらと風に揺られ降ってくる様は、まるで白い花。 その光景に思わず見とれる。 「どうかしたか?」 こちらに気付き、リオンが近寄るのがわかった。 「…あるお伽話を思い出してた」 視線をむけず、窓の外を眺めながらフィエルは呟いた。 『どんな物語なんですか?』 シャルがフィエルに聞く。 長いよ?と前置きしたあと、フィエルは静かに話だした。 「…世界を滅ぼす魔王と、唯一魔王を倒せる救世主の物語なんだけど。 人が人を殺すたびに世界の終焉は近づき、あるとき魔王が誕生するの。 世界を終焉に導く存在として。 そしてそれを阻止するために誕生したのが救世主。 救世主は魔王を倒す為だけに過ごしてきた。 けれどある時、彼は魔王に出会うの。 彼は驚いた。 魔王という存在もまた、一人の人間だったから。 救世主と同じ、感情をもつ人間だったから。 彼は戸惑った。幼い頃から教え聞かされてきた魔王とは、あまりにも掛け離れていたから。 そしてしだいに救世主は魔王に興味を持ちはじめた。 自分と相反する者がどんな人物なのか、と。 けれど、知れば知るほど魔王は本当に普通の人と同じで。 いつしか救世主にとって大切な人になっていた。 いつまでも、このままでありたいと彼は願った。 けれど、世界は確実に終焉に近づいていて、救世主は決めなければいけなかった。 世界をとるか、大切な人をとるか-」 「そのあとは?」 リオンが問うとフィエルは首を横にふった。 「…わからない。この話を聞かせてくれた人は、教えてくれなかった」 紀伊従姉さんは悲しそうに微笑って、教えてくれなかった。 『けど、世界と大切な人ですか…』 難しいですよねとシャルが呟く。 「…お前だったらどうする」 「え?」 「お前だったら、どちらを選ぶんだ?」 「んーそうだなぁ…」 リオンの問いにしばし黙る。 大切な人と世界。 もし、どちらかを選ばなければならないとしたら、その時は-… 「-出来ることなら、どちらも」 「どちらも?」 私は欲張りだからと笑う。 「どちらも大切なものだから選べないよ。だから、失いたくない。それに………少しでも可能性があるのなら、それに賭けたいから」 リオンは何も言わない。 「奇麗事なのは解ってる。…けど、どうしても願わずにはいられないんだ」 今も、それは変わらない。 私は、彼を助けたい。 けど、もし選ばなくてはいけない時がくるとしたら―? (選べるかな。私に………) 「きれいごとだな」 「でしょ?」 「けれど…」 「ん?」 「別にお前らしくていいんじゃないか、それでも」 「……そっか。そうだね」 それからしばらく景色を楽しんでいるとフィエルが振り返った。 「ね、リオンだったらどちらを選ぶ?」 「…さあな」 「あのねぇ…。ま、いいけど」 「………ん…」 『マスター?やっと起きた?』 「セドゥ…」 (…………夢…?) どうやらいつの間にか眠っていたようだ。変な姿勢で眠っていた為身体が痛い。 くぅ、と身体を伸ばして窓の外を見ると空が薄く朱に染まっているのが見て取れた。 (…フィリアに怒られそう) もう一度伸ばし、カタン、と椅子を後ろに引く。机に散乱していた本と紙の束を整え持ち上げ出口へと向かう。 『いったい何の夢を見ていたの?』 ふよふよと大気の精がフィエルの顔を覗き込む。 「んー?…ちょっとね」 『何ソレ』 (そういえば、結局リオンには答えてもらわなかったな) 膨れるセドゥに思わず笑いながら先程の夢を思い出してフィエルは思う。 『マスター、行かないと怒られるよ?』 「あ、うん。分かってる」 君は、大切な人を選びますか――? |