ふわり、と草木の香が鼻をくすぐる。そっと目を開けると草原が広がっていた。

「ここ、は…」

心がざわめく。ああそうだ、私は…。

(また、来れたんだ…)

不意に周りの大気が揺れる。その様子をぽかんと見ていたが、語りかけてきた声に顔をほころばして、言った。
「セドゥ」
名を呼ぶと、すっと目の前の大気が凝縮し、形作る。現れたのはまだ幼い少年の姿。薄氷色の髪の奥で榛色の双眸が輝いた。
「久しぶり、セドゥ」
『マスターっ!』
よほど嬉しいのか、セドゥはの周りをクルクルと駆け回る。
「よ。気付いたか?」
…」
「気付いてすぐで悪いんだが、ちぃっとばかし動き回るぞ」
の言葉に振り向くと、茂みの中からモンスターが現れた。
「ホレ。紀伊奈からの餞別」
「これ…!」
投げられてはしっと受け取ったのは以前こちらの世界で使っていた双剣・汞邑だった。
「暗器は持ってるから大丈夫だよな?」
「うん。大丈夫」
チャキ、と腰に挿していた刀を抜刀して声をかけてきたに返しながら、が呟く。
「また会えた。…もう一度一緒に舞おう?〈汞邑〉」
二人が地を蹴ったのは同時だった。



「それで、これからどうするの?」
剣についた血を振り払いながらに尋ねる。
制服にも血が少しついてしまったのか軽く眉をしかめながらこちらに来るに苦笑しつつ、 とりあえず何処か街に行かなきゃな。と返す。
「一応、こっから近いのがアイグレッテだな」
「アイグレッテ……」
が呟くと、あぁ、ストレイライズ神殿があるぞ。とが答えた。
「…ねぇ、?」
「なんだ?」
訝しげに問う声に振り返る。の瞳には期待と不安が見え隠れしている。
「一つ聞くね。もしかして、此処は…」

18年後…なの?

そう尋ねるはにやりと不敵に笑った。そして芝居がかった動作で一礼し、こう告げた。
「ようこそ、世界に祝福された少女。先の争乱より18年後のこの世界へ」







誰も預かり知らぬ所で歯車は軋みながら、また動き始めた。