海岸からおよそ2時間程歩いた場所にリーネはあった。
「リリスおばさん!こんにちは」
「あら、カイルじゃないの」
よく来たわね。とスタンと同じ髪色をしたリリスが微笑んだ。




「なんというか、のどかですね」
和みます。とは微笑いながらリリスの手伝いをかってでていた。
「手伝ってくれて有難う。ごめんなさいね、お客さんなのに」
「いえ、突然押しかけてきたのは私達なので…」
リアラを寝かせてもらい、どうせなら。とリリスに言われカイルはスタンの事を聞きにまわっている。ロニについては例のごとく。はふらりとどこかに行ってしまったけど、ジューダスは先程外の樹にもたれ掛かっているのを窓越しに発見した。
それにしてもは何処に行ったのだろうと内心で首を傾げているとリリスが手を止めてこちらを向いた。
「リリスさん?」
「よかったらさん。先にお風呂に入ってくる?」
「え、でも…」
「船で大変だったんでしょ?後はわたしがやるから。ね?」
「あー…と。じゃあお言葉に甘えて」

既にお湯を沸かしてくれていたのか、確認の為、扉を開けると浴槽には湯気がたっていた。これは感謝してもしきれないなと考えていると、ふとなにやら気配がするのに気付いた。
なんとなしに窓の方に視線をやると窓の隙間から覗いている男の影。
「……誰」
「ふっ、どうやらバレてしまったようだな…。リリスちゃんちの風呂を覗いて二十数年。雨にも風にも雪にも負けず、ただ風呂を覗き続けた英雄。それが俺だ!」
「…………。」
「……………。」
「………………。」
「……………あ、あのー?」

にっこり

しばし無言で眺め、は微笑んだ。












「あ、ジューダスおかえり」
「………リリスが笑顔で外に出ていったんだが」
紅茶を入れる手を止め、は顔を上げた。
「ジューダス」
「……なんだ?」
妙に爽やかな笑顔のに訝しく思いながらも一応尋ねる。
「私ね、私生活を覗く行為は人として最低な部類に入ると思うの」
「は?」
どういう、と口を開く前に裏山の方から悲鳴と爆音が聞こえ、外の木々が余波のせいで大きく傾いだ。ついでにビリビリとリリス宅も軋む。
『い、今のは…?』
「多分リリスじゃないかなぁ」
私の意見にすごく同意してくれてたし。とにこにこと笑いながらシャルの呟きに答える。
「…僕がいない間に何があったんだ?」
事をかいつまんで話す。ちなみにあの後、綱糸でアレを仕留め、リリスに献上したがそれは言わなくてもいいだろう。言わなくてよいことも世の中にはある。あるったらある。
「だからそういう事」
「…そうか」
「うん。あ、ジューダスも紅茶いる?」
貰おう、と返しジューダスはこの話を打ち切る事にした。
その後、いい笑顔で戻ってきたリリスに既に帰っていたカイル達は首を傾げていた。はというとこちらも笑いながらリリスと料理の支度をしている。複雑そうな表情をしているジューダスに気付いたのはだけだったとか。
「兄さんの話を聞いてどうだった?」
リリスの特製シチューを食べながらカイルが答える。
「オレ、父さんは英雄らしい、すごい人生を生きてきたんだって思っていたけど違ったんだね」
「そうよ。兄さんの夢はね、お城の兵士だったんだもの」
おじいちゃんが兵士をしていたから。とリリスが教えてくれる。
(まぁ、最初はそれで密航したって言っていた位だからねぇ…)
カイルとリリスの話に耳を傾けながら心の中では懐かしく微笑う。

今でも懷い出せる。
彼等の前から消えて元の世界で半年、こちらでは18年も経ってしまったけど。
それでも、





寝る場所のソファは3つ。さてどうしようかと悩んでいるとリリスがを自室に引っ張っていった。
曰く、女の子1人男達の中にほうり込むのは色々と。……らしい。
リアラはまだ眠っているらしく、静かな寝息を立てていた。
「……兄さんね、ずっと、言ってたの。仲間を、助けたかった。って。
 手を掴んでいれば、何かは変わったのかもしれないって」
振り返るとリリスがカップを二つ持って立っていた。お礼をいいながら片方を貰い一口飲む。
「……何故、私に?」
なんでかしらね。とリリスは苦笑する。
「そうね…。きっと貴女が""さんだから」
「そう、ですか」
ごめんなさい。気を悪くさせちゃったわねと言うリリスに緩く首をふる。
「構いませんよ。…気持ちは分かりますから」
「ありがとう。
 ………信じてたの。信じてるの。兄さんも、ルーティさん達も。そして私も。ずっと、今でも」
「はい」
「…カイルも、分かる時が来るかしらね」
「…来ると思いますよ」
目を閉じ、開いては穏やかに微笑う。
「きっと、大丈夫です」

だって、スタンとルーティの子供だから


















深い静寂の中、さくりと気配が二つ近づいて来ては眼下を見下ろした。
「あれ、ジューダス、も」
「……お前、何しているんだ」
「…天体観測?」
ジューダスの呆れた問いに返しながら飛び降りる。
「少し眠れなかったから。二人は?」
「似たようなもんだよ。ま、俺の場合昼間寝てたからなー」
「ってどこで?」
と同じよーに木の上」
「「…………」」
微妙な沈黙が落ちる。
「普通、寝る奴がいるか…?」
「そっか、だから探しても姿が見当たらなかったんだ…」
「木の上は結構面白いぞー?」
呆れと納得の視線を浴びながらへらりとが笑う。
「たとえばロニのナンパ全敗の様子とか」
「……」
「…あー、予想はしてた」
「たとえば裏山の爆音の正体とか」
「「…………」」
「まぁ他にも色々とな」
「…判った。、判ったから」
それ以上言わないで、とが話を止める。
「わーたよ。さて、俺はちょいと散歩してくる。二人は先に戻ってて構わないからなー」
そんじゃ、と木々の奥に入っていく。
「…一体何がしたかったんだろうねは」
「さあな」
後姿を見送りつつ、ぽつりとが呟く。
の行動ってよく分からない時あるんだよね…)
軽くため息をついていると、傍にいたジューダスが声をかけてきた。
「明日も早いんだ。戻るぞ」
「そうだね」
明日にはリアラも目を覚ますだろう。

「ジューダス、リーネに来てよかったね」

私達は来ることができなかったから

彼等の言葉を、18年の時を経て、やっと聞けた


「…………ああ」

その言葉にふわりと微笑いながらは夜空を仰いだ。





















07/11/14 up