視界がきかず、一歩踏み外せば元の道に戻れないというさりげなく怖い白雲の尾根に私達は
「ねえ!こっちにいった方が絶対に正解だよ!」
「一応聞くけどカイル…その根拠は」
「未来の英雄の感!」
「おっ前…っ、ふざけるな!カイル、どう見てもお前のせいだろうが!」
「言うと思った…」
とカイルとジューダス、3人で迷子になっていたりする。









リーネを出た後、ノイシュタットに行く為に一応は注意していたのだ。(カイル除く)けれど、
「それにしても、…すごい霧だね」
「本当ね…」
「みんな、逸れないようにしなくちゃね!」
「真っ先にいなくなりそうな奴がそれを言うな」
「なー、念の為コレ持ってろ」
「はーい。ちなみに今どの辺り?」
そうだなぁ…とガサガサと地図を広げるの手元を覗き込む。
「多分ここいらかな。迷わなけりゃ、後−…」
そこまで言ってが顔を上げる。どうしたの、と口を開く前に左腕を強く引っ張られた。
ーっ!あっちに行ってみよう!!」
「ちょ、カイル?!」
慌てて引っ張る彼を止めるが聞いてくれない。ジューダスが思わず舌打ちをする。
「あの馬鹿…!、後を頼む」
「おーぅ。野垂れ死ぬなよー」


そして、冒頭に戻る。












「カイル〜〜」
「情けない声だすな、ロニ」
はぁとため息をつきながらが言う。
もジューダスもいるんだ。平気さ。それより俺等は自分達の心配した方がいいぞ?」
は二人の事信用してるのね」
「まーな。っと、リアラ、平気か?」
「ええ、大丈夫よ」
「無理はするなよ?」
分かってる。とリアラが頷いてが微笑う。そんで?とくるりとロニの方を向く。
「どーでもいいがロニ、何が心配なんだよそんなに」
「……気にくわねーんだよ、ジューダスの事」
「なんで」
「なんでって……」
うっと口ごもる。そんなロニにはため息をつく。
「ま、確かに怪しいけどな。見た目は」
もそう思うだろ!?」
「けどそれが何だ?世の中いい顔して腹の中一物ある奴なんてざらだぞ。ジューダスはなんか理由があるだけだろ」
一々他人の詮索するなよなー。と肩をすくめる。
「言っとくが俺もも人に言えない事あるし。人間誰しも言えない事の一つや二つや10個や20個あんだろー?」
「それは多いだろっ?!」
「残念。俺はある」
思わず突っ込んだロニにけたけた笑いながら、ロニを置いて止めていた足を進める。そんなにリアラが駆け寄って来た。
「…ロニ、煙に巻かれたの気付いてないわね」
「そりゃロニだからな」
そうね、とリアラも同意する。何気に酷いな。
「それにしても…は平気かしら」
「なんでだけかは敢えて問わんが多分平気だろ。この先に山小屋があるらしいからそこで先に待ってようぜ」
「山小屋?」
「そ。あと1時間位歩くが平気か?」
「ええ、頑張る」
「んじゃ行くかー」
「っておいコラ!置いてくな!」













一方の達。

「ますます霧が濃くなってきたね…」
やばいなぁ…と露ほども思ってない声では呟く。ちなみにカイルはジューダスの説教で思考回路ショートさせてる。うん、しばらくは平気だろう。
、今どの辺りか判るか?」
「大体は。に念のために地図の予備持たせられたから」
道を引き返しても来たから、多分あとちょっとだよ。と地図を彼にも見せる。「あいつ、まさかこの事想定していたのか…?」と嫌そうに呟くジューダスに流石にそれはないんじゃ…と苦笑いで返した。
「そうだな…後はカイルが暴走しなければ平気か」
「ジューダス、、呼んだっ?」
思ったより早く復活したカイルに感嘆しながらが頷く。
「うん。後少しだから駆け出したりしないでねー」
揃って帰らないと皆が心配するからね。等、しっかりと釘を刺すことも忘れない。
「……お前、手慣れているな」
「そう?まぁ、誰かさん達のおかげで耐性ついたから」
「……あいつらか」
「蛙の子は蛙だよね」
予想を裏切らないとくすくす微笑う。そうしていると少し前を歩いていたカイルが振り返った。
「ねえ!川の向こうに山小屋が見えるよっ」
「本当だ。じゃあ行こっか」
ただし、走らないで。
先程の言葉を忘れ走りだそうとするカイルの服を掴みながらは苦笑した。












「あ」
「おーカイルに、ジューダス」
「リアラ、!」
よかった、此処にいたんだね!と笑うカイルに同じ様に笑いながらが近寄る。何となくその表情に怖いものがあるのは気のせいだろうか。後ろからついてきたとジューダスは顔を見合わせ、そそくさとリアラのほうへと向かう。

がし

「こんな霧深いとなー色々と面倒事起きるんだよ。行方不明とか行方不明とか遭難者とかなー?」

ぐりぐりぐり

「痛っ、いたいいたい〜っ!」
「なぁカイルー?単独行動が危険だってコト判ったかー?今回はジューダスとが一緒だったからいいよーなもんだけどなー?」
「ご、ごめんっ。ごめんなさいっ!」
「おし。リアラとロニにも言っとけよー?二人とも心配してたんだからな」
リアラーっ、ごめん!とリアラの元に駆けてゆくカイルを見つつ、なー。と戻ってきたジューダスに呟く。
「もしかすっとさー、アレの血ってもしかしなくとも?」
「…血は繋がっていることはあるな」
「お前も苦労してたんだなぁ…」
思わずしみじみと言うと睨まれた。







パチ、と小さく火が爆ぜる音と数人の寝息がその山小屋を支配している。炎の揺らめきがジューダスの仮面に陰影をつけ、その奥にある紫紺に灯りがちろちろと踊った。当初、見張り番にはがかってでていたのだが交代させた。ジューダスはゆるく瞬きをして見たその先の存在にひどく顔をしかめた。
「……なんでお前がいる」
『マスターは寝てるし。流石にこの霧の中じゃ疲れたみたいだし起こすのは可哀相だから。アンタだったら起こすけど』
が契約をした大気の精霊がつまんなさそうに言う。そういえばカイル達と行動を共にしてからはこうやって話すこともなかった。元より、お互いが相手を嫌っているのだからどうでもいいのだが。(これをがいたなら「同属嫌悪みたいなものなんじゃ…?」とあの頃のように言うのだろう)

『此処最近、あれらがいるからちゃんとマスターとも話せないしさー』
『要は坊ちゃんに八つ当たりなんですね…?』
他に何があるっていうのさ。とふよふよとセドゥは炎の上に浮かぶ。その態度に苛立ちが募ったが、此処で言い合いになるのも体力の無駄だと思い直し息を吐き出す事で沈下させた。
少しの間静寂が彼等に取り巻き、それにしても。とシャルティエが呟いた。
『カイルは、似ていますね』
「そうだな…あいつに、ソックリだ」
『あの能天気さとか?どっちかっていうとあれの親の方がまだましな気もするけど』
あ、一応褒めてるんだよ?コレでも。と身も蓋もない発言に否定はせんがな。とジューダスは呟く。
「……運命とは皮肉なものだな。僕はこの旅であいつを、カイルを……」
そこまで言って口を閉ざす。セドゥがす、と目を細めジューダスの影に身を潜めたからだ。何を、と思考すると同時に奥の方で気配がし、そちらを見遣った。





「どうした?ジューダス」
眠りが浅かったのか、ロニが起き上がってこちらを見て問う。
「なんでもない、寝ていろ」
「誰もいない…よな?なんか、カイルをどうこうって聞こえたんだけどよ」
「なんでもないと言っている」
こちらに向かって歩いてきていたロニはジューダスの目の前に立つ。
「…ジューダス、ひとつだけ言っておくぜ」
低い、いつもの軽薄な彼からは及ばない声。無感動にジューダスはそれを見上げた。
「お前がどういう目的で俺たちに着いてくるのか、どうこう言うつもりはねぇ。だがな…もしカイルに害が及ぶようなことをしてみろ。その時は……!」
「熱心なことだ。そうして保護者きどりをいつまで続けるつもりだ?」
「何!?」
「いつまで保護者きどりを続けるつもりかと言ったんだ」
熱り立つロニに冷ややかな声を投げかける。
「お前はそれで満足だろうが、そうやってカイルを甘やかしている限りあいつは成長しない」
正論だ。そう頭の隅で声が聞こえたがロニは無理矢理それをかき消した。血が上る感覚に流され声を荒らげる。
「てめぇ…何様のつもりだ!俺はな、おまえなんかよりもずっと………!」

ずっと、あいつのことは(知っているのだと)

何がわかる

お前に何が分かるんだ

お前なんかに…!






「…ロニ?」
不意に上がったリアラの声にロニがハッとする。ジューダスが視線だけをそちらに向けるとリアラとが2人に視線を向けていた。は此方をきょとんと見、何しているの、セドゥも揃って。と音には出さず小さく口を動かした。眠気を払ったリアラの声がもう一度2人に向けて放たれる。
「……何かあったの?」
「あ、あぁ 起こしちまったか?悪ぃな、なんでもねえんだ」
「ウソ、だってロニの顔すごく強張ってる」
「そ、そんなことは」
「カイルのことね?ロニがそこまで怒るのってカイルのことだけだもの」
そこでいったん口を閉じ、再度ロニに尋ねる。
「ねぇ、何があったの?」
「ホントに、なんでもねぇんだ」
「なんでもないわけないじゃない!だってロニ、今にも殴りかかりそうだったし」
「なんでもねぇよ!!」
思わず怒鳴り、一瞬後しまった。とうろたえる。案の定、リアラは突然怒鳴られて固まってしまっている。
「あ、わ、悪ぃ…怒鳴るつもりは無かったんだ、その…」


「リアラ〜」
不意に聞こえたカイルの声にびくりと肩を震わせ、視線が集まった。起こしたのか、と思ったがどうやら違かったらしい。はぁ、と脱力してロニがうめく。
「なんだ、寝言かよ。人騒がせなヤツだな ったく」
「むにゃ…ずっと…一緒に… ロニも……ジューダスも…も…も…いっしょ、だ………へへっ…」
「………なんとまぁカイルらしい」
「やっぱり起きてたんだ、
まーな、との囁きに返し、「リアラ、ももう少し寝ておけ」と促す。うん、とは頷き皆に気付かれないようにセドゥを呼び戻す。そんな達を視界の隅で一瞥した後、ロニの呼びかけに応えた。
「おい、ジューダス」
「なんだ。まだ言いたいことがあるのか」
いや、とロニ首を横に振り先程とは違ういつもの軽い口調で言う。
「……寝ろや、見張り交代してやるよ」
視線で問えば、「あいつの寝言聞いてたらどーでもよくなっちまった」と苦笑いでカイルを見て呟いた。
「ふっ…では休ませてもらうとしよう」
「悪いのはこっちだ、気にすんなって…」
元より気にしていない。とすたすたと達の方へ来るジューダスに小さく肩をすくめ、と苦笑しあう。

「おやすみ」





















08/3/23 up