白雲の尾根に引き返し、左海岸沿いを歩くこと約数十分。薄霧の前方に暗い穴がぽっかりと達を待ち受けていた。はぐれない様にしろよ、と特にカイルに注意をし、中に進む。

「流石に・・・暗くて何があるかわからないね」
「本当…これじゃあ前に進めないわ」
の言葉にリアラが同意する。明かりなどついているはずもなく、中は水の流音と湿った土の匂い等の空気が沈殿しており、体にまとわりつくように感じる。そんな中ぽつり、とリアラが呟いた。
「廃坑っていうと…やっぱり人なんて誰もいないのよね……」
「そりゃそうさ。ま、オバケならいるかもしれないけどさ!」
明るく言ったカイルの言葉に過激に反応する、約一名。
「ば、バカ言ってんじゃねえよ!オ、オバケなんて、こ、この世にいるわけ…ねえじゃねえか!」
「なに、ロニ? オバケが怖いの?」
「こここ、恐くなんかねえよ!・・・・・・・・ただ、いたら・・・なんていうか、その・・・ここ、困るなと思ってよ・・・」
「それを恐いというんだ」
「まぁ、オバケじゃなくってモンスターなら出てきそうだけどね」
突っ込みを入れるジューダスにはくすくす笑う。だなー。とが頷き、薄暗い中を見回した。
「にしても18年前、ね。廃坑っていう位だからカンテラくらいはどっかにあるんじゃないか?」
「ねぇ、これって使えるのかな」
「おいカイル勝手にどっかにいくなって……て、お前それどこで見つけたんだよ」
「あそこの壁にかかってた!」
「…………」
「…とりあえず明かりは確保出来たみたい、だね?」
カイルが見つけたカンテラにソーサラーリングで火をつけると、ぽぅ、と柔らかな灯が燈る。周囲の立体が色濃く浮き上がり、ぐるりと回すと、やはり水路があり、流れてくる水が光を鈍く反射した。道の1つは瓦礫で埋もれていて進めない。残りの2つに光を向けると、片方の道の奥まった所で金属質の柱が鈍い光が一瞬反射した。
「あっちか」
「そだな、行くぞー」




灯りを持つを先頭に、ぞろぞろと進む。途中、襲ってくるモンスターを倒して一息。そういえば、とカイルが疑問の声を上げた。
「ねぇ、宝って、何なのかなぁ」
「じゃぁカイルはどんなものがいい?」
「うーん、やっぱり伝説の剣とかかなぁ」
の問いに無邪気に応える。
「ソーディアンみたいなものか?そんなのつまんねーよ…・・・・・・そうだな。誰も見たことのないすごーい宝物がいいって・・・・たとえば・・・美女とか、美女とか、美女とか・・・」
「それってロニの欲しいものじゃない・・・だったら、わたしは英雄がいいな」
「なんだよ、リアラー。英雄ならもうここにいるじゃん」
リアラの言葉に反応してむくれるカイルにはぁ、と呆れた様にため息をつくジューダス。
「お前たちの思考は理解できんな。人間が宝箱に入ってるわけないだろう」
「やあね、ジューダス。冗談に決まってるじゃない。ねぇ、ロニ」
「え?・・・・冗談なの?」
「そうだぞーロニ。それに仮に人が入ってたとしたら開けたら白骨死体が出てくるぞ?」
「あぁ…箱の中では生きれないものねー」
「お、おお前らっ!なんでそーゆー恐い方向に持ってくんだよ特に!!」
「さーてさくさく進むか―」
「無視すんなこのやろーっ(泣)」
ロニをからかう要素が増え、愉しそうにが笑った。








奥にあった機械はレンズを200枚投入すれば起動するものらしく、只今残り100枚をカイル達3人が行動の奥に捜しに行っていたりする。
「リングで消費した分はすぐに集まったね」
「だなー。1,2枚で済むから楽だったし」
「後はカイル達が戻って来るのを待つだけか」
ざらざらとレンズを機械に放り込み、後ろを振り返る。淡いレンズが融けるように発光し、光が周囲を照らして幻想的に見える。

『マスター、マスター。静かだねぇ』
「そうだねー。ここ最近あんまり出てこられなかったしね、セドゥ」
『マスターとちゃんと話せないしねー。暇だし暇だし暇だし仮面は変だし』
「今さらっと最後違うこと言わなかった……?」
「まぁ事実だしなー」
「お前らは……!」
「ちょ、も煽らないの。はいはい二人共、喧嘩しないでよもー」
あんまり煩くしてるとモンスター来るんだから。とため息をついて3人を見やる。えぇー、とが喧嘩する二人を指さした。
「だってよー……こいつらから「お、オオオオオバケーーーーっ!?」…おぅわ?」
なんだなんだと達が廃坑の奥――カイル達が進んだ方を振り向くとロニがムンクの叫びのように顔を引きつらせながらこちらを見ていた。カイルとリアラは隣でロニ程ではないが目を丸くして驚いている。
かくん、と首をかしげながらがロニに声をかけた。
「なに大声をあげてんだよロニ」
「そ、そそそそれっ!そいつ……!」
「あっはっは。それこれあれじゃわかんねーぞ?」




「…………そういえばさ、ジューダス」
「……そうだな、忘れていた」

ロニとのやり取りにあはは、と乾いた笑いを零すと、長いため息をついたジューダス。言いたいことは痛いほど分かった。けれど不可抗力だ。
「ねぇ、。その浮いている男の子は…誰?」
おそるおそる、リアラが代表して尋ねる。二人して顔を見合して、仕方ないかと息をついてしばらくの沈黙後。
「……私の友達の、大気の精霊だよ…」
『セドゥだよー。ちなみにオバケじゃないからね。言っておくけど』
本当に今さらなのだが、セドゥをカイル達に紹介する。
「うぎゃーーっ!しゃ、しゃべったーーーっ!」
「ロニ、いーかげん黙れ。うっさいから」
ごいん、とその打撲音は廃坑内でとてもよく響いた。






「ねえねえ!セドゥはと契約?してるんだよね!」
『そうだよー。マスターに会ってからは一緒にいたのさ』
「じゃあ、何故私たちには見えなかったの?」
『晶術とは少し違う術で。だって精霊って言ってもみんな驚くだろーし。あえて言わなかったし、姿を見せなかったんだ』
へーそうなんだー。とふよふよと浮かぶセドゥにカイルとリアラが後ろで声を上げる。ロニも驚きが過ぎ去ってお化けの誤解を解けば(多少はびくついていたが)物珍しそうに見ているだけとなった。
「…馴染むの早くない?」
「……あいつ等の子供だからじゃないのか?」
「いやでもさぁ……」
もう少しは驚きが長引くかと思うんだけど…。とはぼやく。
「ま、なんにせよ受け入れられたみたいだし、いいんじゃないか?」
「そうだねー。嫌わなくてよかったかな」
の言葉に頷きながら達は爆弾を下方の穴――小舟が浮いているだろう場所に落とす。階下に戻れば小舟の上に収まっている丸い爆弾が無事にあった。
面白がってがロニに向けて爆弾を放り投げると言うちょっとした騒動があったが。それもすぐに収まり、瓦礫のある道に爆弾を置く。ジューダスが皆に耳をふさぐように指示をし、ソーサラーリングで着火した。




耳をふさいでいても大きな音が聞こえ、音に遅れて振動が地を震わす。思わずは塞ぐ手の力を強めた。
「……ど、どうなった…?」
「成功だ。これで先に進めるぞ」
カイルの呟きにジューダスが返す。土埃が収まるとなるほど、瓦礫があった場所にぽっかりと穴があいていた。
中を進みその細い道の中央、そこに宝箱が不自然に置かれているのを発見した。おそらくそれが行商人が言ってたと云う「宝」なのだろう。

「これが、宝物…?」
「カイル、開けてみろ」
ロニの言葉にうなずき、カイルがそれを開けると、中には何の変哲もない、小さな石が収まっていた。
「……ねえ、これって」
「ただの石…よね?」
リアラとカイルが顔を見合わせる。どうなってんだ?とロニが呟くと、ふよふよと漂っていたセドゥが声を上げた。
『ねーマスター。これ、レンズの増幅石だよ』
「レンズの…?」
「どういうこと?」
「それはベルクラントに使われていたレンズの力を増幅させる石だ」
よく見れば入れてあった箱の細部は普通のものより材質が違う。なるほどなぁとが呟く。
「つまり。これさえありゃ、もう一度あんなのモノ()造れる、ってところか」
「どちらにせよ、現実には無理だがな。この石をどうやって使えばいいか、それは誰にもわからん。本来ならば、オべロン社が解析を進めるはずだったが、」
18年前になくなっちゃったものね。とジューダスの言葉をが引き継ぐ。
の言葉に同意し、これ欲しいなぁ。としみじみとは言った。
「ちょっとまて!なんでそんな物騒なもん欲しがるんだよ!今の話聞いてなかったのか!?」
「聞いてたに決まってるだろ。武器製造以外にも用途はあるしな?」
んなわけねえだろ!ロニが叫ぶのをかるくスルー。そんな二人に呆れていると、リアラが道の奥を見ていた。同じようにも視線をのばすと、奥から微かな光が漏れていた。
「光………?」
こんな廃坑の中で自然の光はおかしい。そう思いながら通路を進むと、

「う、わぁ………っ。すごいや!」
岩と岩の隙間から光が漏れ差し込んでおり、光がさす地面には柔らかな緑と小さな白い花が咲き乱れていた。先ほどの水流の源は此処なのだろう。地下の水が流れ込んでいるのか、綺麗な水が光を反射している。
「キレイ…」
リアラがほう、と息をもらす。
カイルやロニが物珍しげに周りを見渡す中、一人奥の石壁の方にいたが言葉を発した。










「『これを読む未来の誰かへ』…」


「え?」
イレーヌ・レンブラントのメッセージだ。そう告げては石壁から体をずらす。どれどれ?とロニ達が顔を寄せ合い、刻まれた言葉を読み上げる。




『 この鉱山にある鉱石を使えば、レンズの力を大いに高めることが出来ます。

 そうすれば生産力は増大し、全ての人々が豊かな暮らしを送れるようになるでしょう。

 功績はノイシュッタトの貧富の格差をなくせる奇跡の石となるのです。

 この奇跡の石は光との化学反応によってのみ、作られる物のようです。

 偶然光が差し込むよう岩が連なっていて、偶然この場所に石があった。

 それはきっと神様からの贈り物なのでしょう。

 ですから、この場所を壊さぬよう、大切に守っていってください。

 この場所を守ることが、そのまま、ノイシュタットの人達を守ることになるのですから―――



 これを読む未来の誰かへ

         オべロン社 ノイシュタット支部長 イレーヌ・レンブラント 』







「なるほどねぇ、確かに鉱石は兵器だけじゃない。工場や船にも使えるもんな」
「だから言ったろーが。さっき思いっきりロニは否定してたけど」
「う…すまん。確かに、俺も頭が回らなかったな…。これじゃ、兵器を作ったやつらと同じだな…」
オベロン社も同じさ。そうジューダスは言う。
「そして…イレーヌもな。彼女達は道を誤った。理想の実現を急ぐあまり、即効性の劇薬を選んだんだ」
「神の眼の騒乱か?そうだな…こんな風に考えられる人が、一体どうして…」
「だから、じゃないのかな。彼女は当時の街の状況に心を痛めていたらしいから、間違っていると知っていても、選んじゃったんだよ」
「そうね…。イレーヌさんの思いは嘘じゃなかったと思う。ノイシュタットに住む人たちのことを考えて、鉱石を掘っていた。そしてこの場所が荒らされ、鉱石が取れなくならないようメッセージも残してくれた…。
 だから、此処はこんなにきれいなのよ。まるで…宝物みたいに」
「宝物、か。案外、こっちが本当の宝物かもしれないな」
「そうだね、きっとそうだよ!」
「本当の宝……。ふっ、安っぽいセリフだな」
「へっ、うるせーよ」
「いいんじゃないか?安っぽくてもさ」
「そうだな」
「ジューダス…」
「さて、と。本当の宝も見たことだ。街に戻ろうぜ」
「うんっ」










ぞろぞろと皆が出口へ向かう中、不意には足を止め、後ろを振り返った。


「        」

?」

「何でもないよ。いこっか」

にこりと微笑っては歩きだした。














08/11/09 up