流れゆく雲も、

吹き抜ける風も、

何処までも何処までも続く昊も

すべて、すべて


「変わらない、ねぇ…」
『何か言った?マスター』
「ううん、何でもない。も戻ってるだろうから早く戻ろうね」
こてんと傾げるセドゥに笑いかけながらは先程買った荷物を持ち上げ、現在の拠点である宿屋に足を向ける。 その後ろをセドゥはふよふよとついていく。
気付いた事だが、どうやらセドゥの姿はセドゥ自身が望まない限り他者には見えないらしい。便利な事である。



一方、はというと。
「んー…と、おじさん、そっちのタイプも見せてくれないか?」
「あいよ」
「さんきゅ。…やっぱしあいつにはこっちの方がいいか。おじさん、さっきのとこれ2つくれ」
「まいどあり。兄ちゃん、それ両方共つけるのかい?」
「まさか。こっちは仲間の分だよ」
けらけら笑っては店の店主に代金を払う。
「兄ちゃん、お前さんもエルレイン様の加護を受けに来たのかい?」
「エルレイン?」
首を傾げると知らないのかい?と驚かれた。
「輝きの聖女って巷じゃあ言われててよ。…本当に知らないのかい?」
「輝きの……あぁー。いや知ってるよ。その異名なら俺の所でも何度か聞いた」
そう応えたに店主がおいおいと苦笑する。同じくも笑い、店を離れようとして何を思ったかもう一度話しかけた。
「っと。そーいやさ、神殿の中にある知識の塔って一般にも開放されてんだよな?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「いや、入れない日とかあんのかなってね。暫く通いたいからさ。いつか知ってるか?」
「そうだな、確か次は…3日後の礼拝の時だな。神官共しか入れねぇよ」
「へぇ、助かった。ありがとな」



、頼まれた物買ってきたよ」
「おーご苦労さん。悪いな」
「ううん。それより、紀伊従姉さん何だって?」
の服送り付けてきた。そこの紙袋に入ってんかんな」
着替えたらもう一度こっちに来てくれと言われ、頷いて部屋を出る。

こちらの世界に来て2日が経った。18年前に私が飛ばされ、彼等と出会った森は、今では街となっていて既にあの面影はない。

変わってしまったもの

変わらなかったもの

流石に18年という月日は長かったみたいだ。

(フィリア達に会ったら、驚くだろうな)
渡された服に腕を通しながら苦笑する。
あの時は目の前で消えたのだから。
(どうしようかな。偽名でもつけるかなー…でも名前3つもあるのは抵抗あるし)
名前が3つもあるのはどこぞの骨仮面だけで充分だと思う。
(…まいっか。シラ通せば。驚かれるだろうけど。ものすごく驚かれると思うけど)
うん。とは一人で完結させる。
、着替えた、よ?」
扉を開け、を見上げると何故か、
ぎゅむーっ
「っ、わみゃぅ〜〜っ!?」
いきなり抱きしめられた。突然の事でわたわたとする
「ちょ、っ!お願い離して〜っっ」
「あ−すまんすまん。なんかつい」
「ついって…」
なんであの行動に繋がるのよと思わずぼやくと、気にするなと頭を軽く撫でられた。
「紀伊奈が選んだだけはあるな。似合ってるよ、それ」
「あ、ありがとう」

ちなみに今着ているのは、全体に淡青を基調としたハイネックのワンピース系の服で肩の所で切り替えて袖は白。 前は膝より少し上辺りまでで動きやすくなっている。黒のミニパンツに暗器を入れたポーチを取り付け、白いロングブーツという姿だ。

「さて、と。取りあえず今後どうするかだな」
「そうだね。…あ、ねぇ
椅子に座りながら、窓辺に寄り掛かっているに言う。
「んー?」
「えと、私の名前さ、こっちではって名乗ってたから今度からそれで呼んでもらってもいい?」
「俺は構わないけど、いいのか?っと−、を知ってる奴に会った時ばれないか?」
「多分大丈夫。ばれたらその時はその時だから」
が言うならそんで。…あーでも二人だけの時はでもいいか?」
『いっとくけどぼくもいるんだけど?』
「あははすまん。訂正。三人の時」
「うん、いいよ」
「さんきゅ。んじゃまあそれは良いとして。そだなー…とりあえず、知識の塔に行ってもいいか?」
「うん。私も行く」
知識の塔は18年前のあの時以来だ。あそこは変わらなかっただろうか。
「そうと決まれば行くか。―――エクスフィトの依頼内容も教えてやるよ」


知識の塔は少しだけ昔とは違ったが古い書物特有の空気は相変わらずだ。どうやら利用者は私達しかいないらしい。
「さて、と。一先ず確認させてくれ。はどこまで識っている?」
「…ん、と。この世界(こちら)に来るまでの知識。あと18年前(むかし)の実際に見聞きした記憶、かな」
それがどうかした?と首を傾げる。
「いや、ただの確認。んで依頼の内容なんだが」
「うん?」
「『これから起こるであろう未来にどうか力添えを』だと」
「……とゆーと、もしかして」
「もしかしなくとも、の考えてる通りだな」
こくりとに頷く。
「エルレインの阻止。エクスフィト達、創造主は一応、己の造った世界の歴史に介入出来ないからな。…一応
最後の方は微妙に明後日の方を見ながら呟く。
…?」
「気にすんな。他には何が聞きたい?答えられる範囲でなら言うぞ」
…なんかはぐらかされた気がする。
「…じゃあ、はこの世界の事、どこまで知ってるの?」
の識ってるそれより少し多いってとこかな。今んとこ」
「そうなんだ…」
流石に全てとはいえんがな。とは語る。
「俺達は後は待つだけだな。おそらく流れにのるのは3日後」
「3日後?なんで?」
きょとんとしたは先程店主から聞いた事を説明する。
「3日後の礼拝、か…。そっか。フィリアが…」

リアラと出会い、カイル達と出会う。

そして、彼とも。

「大丈夫か?」
「…うん。平気」
「そか。ならいいけどな」
そう言った後はあ、と呟き一つの紙袋を取出す。
首を傾げていると開けてみろとただされ、開けるとレンズを加工した腕輪が入っていた。薄い菫色がレンズの中を漂う。
、これは?」
「超高濃度レンズ。多分チビっこがいるから平気だろうが、ま。俺からの餞別という事で」
用心に越したことはないしなとが言う。ちなみにのはカフスらしい。右耳につけられたカフスから小さな碧色の煌めきが見えた。
「ありがとう、
「どういたしまして。とりあえずエクスフィトの依頼内容は伝えた。後、は、紀伊奈からの頼みだな」
「紀伊従姉さんからの…?」
そうだ。とが頷く。
「先に言っておくが、これは強制じゃない。話を聞いた後決めてくれ」
「うん、わかった」
「紀伊奈からの頼みは、の羽白の血の覚醒。18年前、はここから元の世界に戻った時の事、覚えてるか?」
「……うん。覚えているよ」

あの時

私の足元から光が溢れ出した。それがまるで羽の様になった事も。

「羽白の一族ってのはちょっと特殊でな。個差はあれど必ず能力を持って生まれてくる。 主に男性は武器創造の能力、女性は空間移動の能力をな。
のアレはおそらく負荷がかからないように無意識に羽の形にしたというのが紀伊奈の見解だ」
ここまでは分かるか?と問われは頷く。
「で、だ。の羽白の能力は今目覚めかけの状態にある。 言ってしまえば少し不安定なんだ。だからある程度覚醒させて安定を測りたい」
が頼まれたのは何故?」
「今回一緒に行くことになったからな。多分理由はそれだろ」
「そっか。…えっと、さっき女性は空間移動の能力って言っていたけど、覚醒したら私にも使えるの…?」
「さあ?」
「さあって…」
「そこら辺は何とも言えんな。本来、羽白の能力を完全に覚醒させるのはかなりの年月がかかるもんだから。 の場合はあくまで能力の安定の為、ある程度覚醒させなきゃならないという事」
さて、どうする?とに尋ねられる。少しの逡巡の後、は答える。
「手伝って、くれますか?」
その言葉には優しい笑顔で答えた。

「勿論」