『あ』
「ん?どしたチビっこ」
に何かあったのかと少し視線を下に向け、小声ではセドゥに問い掛ける。
此処は人通りも多く、一人で会話するなど下手な事でもしたら思いっきり冷たい目で見られるのがオチだ。
それは避けたい。
セドゥは違うとふるふる首を横にふる。しかし、視線はある一点に集中していた。
が視線を辿るとその先には竜の骨の様な物を被った黒衣の少年が目に留まった。
「あいつがどうかしたのか?」
『……マスターの、仲間だったやな奴』
「は?」
なんで。とセドゥが呟く。
『なんで、この時代にいるんだよ…!』


マスターが元の世界に戻った後、濁流に呑まれた筈なのに。
18年後のこの世界にいる筈ないのに。


『なんで…』
「……ほーお?あの少年がリオン・マグナスねぇ」
…?』
くつくつと可笑しそうに笑いだしたに、訝し気な視線を向ける。それには構わず、視線を固定したままセドゥに話しかけた。
「チビっこ、先に戻ってといてくれないか?」
『いいけど……まさか』
「そのまさか。あ、言っとくが何があっても絶対にには言うなよ?」
言ったら意味がないからな。と口元に人差し指をあてる。
『でも…!』
「つーわけで。チビっこ、分かったな?」
圧力をかけさっさと戻ってろと追い払う。セドゥはまだ言いたそうだったが『もう…ぼくは知らないからね!』と言い、ふよふよと宿屋に戻っていった。




後姿を見送り、さて。と呟きは人込みをぬって少年に近付く。勿論、気配も足音も全て消してだ。
(さて。どうやって接触するかねぇ)
一定の距離を保ちつつは心の中で思案する。


リオン・マグナス

先の戦乱で仲間だったスタン・エルロン達を裏切ったと先日読んだ歴史書には書かれていた。

(――ってもなー。真実は今では達、当事者位しか知らねえよな)

彼もまた、被害者なのだから。

そんな事を考えていると少年が路地に入っていくのが見えた。
運がいいのか悪いのか、人通りは全くといってない。
(うわー。つけたらバレるよな絶対………っと、ぉ?)
『……ゃん、よかっ…ですか?』
「……。それに、…だ」
聞こえてきた会話に眉を寄せる
一人、ではない。
もう一人少年より年上の声が微かに聞こえた。 気配を探ってもその声に当たる人物はいなく、頭を巡らせてそれがソーディアンの声だと思いあたった。





「そこのおにーさん。一人で話してっと白い目で見られるぞー」

時と場所をよく考えて独り言は言おうなー。と先程の自分とセドゥの対話を棚に上げては声をかけてみた。
「…!?僕に何の用だ」
いきなり声をかけられ、バッと彼は振り向き厳しい目付きでを睨みつけてきた。殺気ではないにしろ緊迫した空気が流れる。
それを軽く避けて怖いなー。と肩を竦める。
「別に?ただ、さ…人目は注意した方がいいぜっつー余計な助言でもしようかな。と」

なあ、リオン・マグナス?

音には出さず口だけ動かす。
言葉を読み取ったのだろう。驚いた様に仮面の奥の瞳が見開かれ、次いでかなりの殺気をに向けて来た。
「貴様、何者だ」
。通りすがりのただの旅人、かな?」
「フン、信じられんな」
「ま、だろうな。けどあんたに何かしようとは思ってないから安心しろ。
 …ちょっとだけあんたの時間貸してもらいたいだけだ」
軽く肩を竦めながらが話を持ちかける。
「会わせたい奴がいる。一緒に来てくれないか?」
「………どうせ僕に拒否権はないのだろう」
「流石。わかってんなら話は早い」
「勘違いするな。妙な真似をしたら貴様を斬り刻む」
「出来るもんならやってみな。……こっちだ。ついて来いよ」









遅いね」
『…多分もうすぐだと思うよ』
部屋にいろって言われて待ってるのにね。と椅子に腰掛けてセドゥと会話する。
「…それでセドゥ?戻ってきてから何むすっとしてるの?」
『べつにー』
ふよふよと浮かぶセドゥの表情は明らかにむくれている。理由が分からないはただただ首を傾げるばかりだ。
「別にって…と何かあった?」
『違うもんー』
じゃあ一体何なんだと思わずため息をつく。
そんななか、ぴく、とセドゥが顔を上げる。
『マスター、帰って来たみたいだからぼくはの部屋に遊びに行くね』
「ん?うん、それはかまわないけど」
『なんかあったらすぐに呼んでね!ぜったい!』
「う、うん」
思わずこくこくと頷くとセドゥは安心したのか、すっと姿を消した。
もう既にの部屋にいるのだろう。間を置かずにドアが軽くノックされが顔だけ覗かせた。
「今戻ってきた。あぁ、そのままでいいぞ」
そう言うはやけににこやかだ。
が首を傾げてると、受け取れっとがなんか白いものを投げてきた。

ぱしっ

「は……へ、えっ?は?!」

白くて、硬い竜の骨のような――――

あまりの出来事に思考が止まっていたら今度はどんっと何かが押された様な音。
反射的に顔を上げたは思わず息を止めた。