「ねぇ、ジューダスってば!」
の腕を掴みながらジューダスはどんどん先を行く。先程から何度も名を呼んではいるのだが、無視ばかりだ。
「ジューダスっ」
少し大きめに名を呼ぶと、神殿の門が向こうに見えた所でやっと立ち止まった。そしてこちらを向いたはいいが、何も言わない。
「ジューダス?」
「………」
「ジューダス…言いたい事があるなら言ってほしいんだけど」
依然、腕をつかんだままこちらを睨むジューダスに腕が痛いよと言いながら見遣る。
…」
「ごめん。でも、さっきの戦闘については何も言わないでね。自分でも反省してるんだから」
「…なんであんな無茶をした」
「いや、何も言わないでって言ったばかりなんだけど私…」
困った様にははぁ、と溜息をつく。
『でも、本当にあの時は息が止まるかと思ったんだよ?』
「シャルも…だからごめんって。あれは私の不注意でおきた事。それは変えようもない事実。
 …大丈夫。二度とあんな事、おこさないから」
多分ね。と口には出さず呟く。それを知ってか知らずか、ジューダスが溜息をつく。
「全く、お前は…無茶するな馬鹿者」
「あ、なんかその言い方ひどい。それじゃあ私がいつも無茶してるみたいじゃないか」
「事実だろうが」
「違うよ。私は自分の力量くらい把握してる。その上で出来るぎりぎりの範囲を見極めているだけ」
『それって屁理屈っていわない?』
「言わない」
むぅ、とがふくれる。
「ともかくだ。お前は見ていて危なっかしいんだ。だから…」
「?」

「いつも僕の助けられる範囲にいろ」

その言葉には目を見張った。しばらく呆然とし、掠れてしまった声で呟く。
「………守られる。のは、私には合わないと思うんだけど…」
「そんな事、前の経験からわかっている。お前はそこまで弱くないしな」
言いたい事はそれだけだと言われ、顔を背けられた。
誰かに守られる程弱くない事をは自負してる。彼もそれを判っているはずだ。
その上で
きっと、それは彼にとって最大の譲歩なのだろう。
「狡いなあ……」
「なにか文句でもあるのか?」
「ううん。……ありがとう」
ふわり、と微笑う。

ジューダスの言葉はうれしかった。

本当に嬉しかった。

けど――――



(それは誰への贖罪ですか?)




「おーいっ。ジューダスー、ーっ」
「え、カイル?」
声のした方を振り向けばカイル達が見えた。そしてそのまま激突しそうな予感がしたのでさりげなくジューダスを引っ張り端による。

ズザザーッ

案の定カイルはスライディングしてようやく止まった。
「よかった!待っててくれて」
「カイル…お前な」
「気付いたら二人共いないんだもん。何処にいったかと思ったよ」
「あはは…」
「ま、そーゆう訳だ。邪魔して悪かったな」
「あ、
カイルの言葉に苦笑しているとぽすん、と頭と肩に重みが加わる。言わずもなが、だ。 いい加減慣れてきたので普通に返す。
「平気。あらかた話は終わってたから」
「ほぅ?あらかた、なんだ」
「そう。あらかた、なの」

とりあえずまだ言われそうだから。

そう小さく教えると髪をくしゃ、とにやられた。そのやりとりにリアラがくすりと笑みをもらす。それに気付き、そういえばとは首を傾げた。
「…ところで、リアラはこれからカイル達と一緒に?」
「ええ。フィリアさんがそうするようにって」
「そっか。なら安心だね」
「そーいう達こそなんでこんなところで…はっ、まさか!」
「…何を考えてるのかは知らんが違うぞ」
オーバーリアクションのロニに冷めた視線を向けるジューダス。
「ジューダスとはこの後の事を話していただけだし。ね?」
「この後?」
「うん。何処に行こうかって」
ちなみに嘘である。
「えっ?達も一緒に行こうよ!!」

…やはりそう来たか

どうする?

とりあえずジューダスに任せた

「だって」
「……お前達な」
「何が?」
3人のアイコンタクトに気付かなかったのか、きょとーんとカイルが首を傾げている。
「…偶然通りかかったから、気まぐれに助けた。それだけだ」
「どうやったらあんな所、偶然通りかかるのさ!助けに来てくれたに決まってるよ!」

まぁ、普通はそう思うよね。誰だって

どっちかってーと帰ってくるの遅いから見に来たって感じだったけどな

……もういいお前たちしばらく黙ってろ

へいへい

くすくすと微笑う。それを一瞥してジューダスはカイルを見やる。
「そう思いたいのなら勝手にしろ。僕達はもう行く」
「待って!ジューダスは、どうして俺たちのことを助けてくれるの?」
「お前たちを見ていると危なっかしくてイライラするからだ」
「それじゃあさ、ジューダスも一緒に来ればいいんだよ!」
「なに?」
「遠くでジーと見てるからイライラするんだよ。近くにいればそんなこともないって。
 それにフィリアさんが言ってたよ。リアラには仲間が必要だって。だからジューダスも…」
「……やめておけ。一度仲間にするとロクでもないことになるぞ」
「ロクでもないことって?」
「話す必要はない」
カイルが口を開こうとしたところで、門の方から衛兵がこちらにやってきた。





「おいお前達、この辺りで怪しい奴を見なかったか?」
「怪しい奴?」
鸚鵡返しにロニが聞き、そういえば。とが口を挟む。
「怪しい奴は知らないが、さっき大聖堂の方で大きな音が聞こえたぜ。フィリア司祭に聞けば判るんじゃないのか?」
「それは感謝する。…む?お前達、今日は礼拝の日でもないのに何故此処に…?」
「えーと、そ、それは…」
「フィリア司祭にお借りしていた貴重な書物を返しに来ていたんです。それと、私達の仲間の話を是非聞きたいと以前おっしゃってたものですから」
「そうなんです。司祭様のお話も聞けて、とても楽しかったです」
カイルのフォローをし、にこりにこりと満面の笑顔で説明するとリアラ。
ふとが奥の林のほうを見やる。
「それよりいいのかい衛兵さん?今、奥の方で草を掻き分ける音が聞こえたぜ?ロニも聞いたよな?」
「あ、ええ。早くしないと逃げられちまいますよ?」
「それは本当か。感謝する!」
「いえいえ、お仕事頑張ってください」






ひらひらと手を振り、姿が見えなくなるとほう、と誰からともなくため息をついた。
「いやー危機一髪、て感じだな」
「本当にねロニ。もありがとう」
「いいよ、リアラ。困ったときはお互い様って言うし」
…。はぁ、が英雄だったらいいのに」
「リアラ、話題をすりかえるな。話題を」
「ねえリアラ、オレは?英雄になれるっ?」
英雄の言葉に反応したのか子犬のようにカイルが聞くと可愛らしく微笑んで、「まだ経験が足りないわよ。カイルは」とリアラがのたまった。
…微妙に黒い気がしなくもないが。
あれリアラってこんなだったっけと軽く思考を飛ばしているとやや呆れた感じがしなくもないジューダスがこちらに来た。
「なに?」
「…。お前よくあんな嘘つけたな」
「あははやだなぁジューダス。前半は本当のことだもん」
「そうそう。前半はな」
本を返しにいったのは紛れもない事実だし。
ねー。とが声を揃え、思わずジューダスは頭を抱えた。
それで?とロニが話を戻す。
「結局のところどうするんだ?ジューダス」
「僕は…」
「ね、一緒に行こう!」
「カイルがこう言ってるわけだし、そろそろ降参してみたら?」
カイルを見、を見て何かを諦めた風にジューダスが頷いた。
「………仕方ない。こいつらだけじゃ危なっかしいからな」
「あのなぁ…」
「決まりだね!それじゃあ、ジューダス、。 これからよろしくっ!」

にぱ、とカイルが太陽のような表情で笑った。