ロニとは逆方向に向かったは比較的早くとジューダスを見つける事ができた。
「お前ら平気かー?」
!」
「カイル達はどうした」
「今ロニが探してる。俺らはこのまま船倉に向かうぞ」
「船倉に?」
揺れる船内を走りながら襲い掛かる敵を切る。
「音が下の方から聞こえたもんでなっ」
「となると上は囮みたいだね」
「そうなるな。そっちはカイル達に任せておけばいいだろう」
船員の制止を振り切り3人が船倉へ降り立つと、そこには底を突き破ってフォルネウスが暴れていた。



それぞれ武器を手にし、身構える。

フォルネウスを見てがくるりと振り向いた。目に涙を浮かべて。
「ルト−〜〜」
ぐすぐすぐすぐすえぐえぐえぐえぐ
「…えーと。大丈夫かー?」
「フォルネウスがこんなのだとは一応知ってたよ知ってたけどさー?うんそうだよ私の偏見なんだろうけどでもねでもね!?」
涙を流しながらに泣きつく。
「普通巨大ギンザメだと思うんだよーっ」
なにあのヤマタノオロチっぽい尾!
「あー…。の気持ちはわかる」
は苦笑しながらぽむぽむと頭を撫でて落ち着かせる。ジューダスが睨んでくるがそれはスルー。どっちにしろ戦闘中なので来れない。

フォルネウス
[ゲーティア]。別名、[ソロモン王の小さな鍵]に出てくる魔神の名に由来するものだ。確か29の軍団を支配する侯爵だったか。それ位はでも知っている。
一般的にギンザメの姿で描かれている為、にはショックがあったようだ。

「とりあえず、今戦闘真っ最中だからどーにかせんと」
「ううぅ…。セドゥ、お願いー……」
『なに?マスター』
「…あれ八つ裂きにしよう」
『はーい。ついでにあいつも対象加えていい?』
「ダメ」
即答するとセドゥは不満そうにふくれたが、命令は遂行してくれた。術発動の際に下がっていたジューダスが駆け寄ってくる。
「…平気か?」
「大丈夫…。ちょっとカルチャーショック受けただけだから」
「それであれだけやらかすのも凄いと思うけどな」
ものの見事に海の藻屑となってしまったモノを見て思わずは呆れ笑いを零す。
しょうがないじゃない。と涙を拭いながらが言った。
「なんかもう、色々とやるせない気持ちだったの。それに、これ以上船底の穴開けられたら沈むと思ったんだよ」
「確かにそうだがな」
と、バタバタと上で走る音が近づいてきた。3人が上を見上げるとひょこんとカイルが顔を出してきた。
「ジューダスっ平気っ?」
「ああ、平気だぜ」
「よかった。船員さんに聞いたら3人がこっちに行ったって教えてくれたからさ」
上からひょこりとリアラも顔を覗かせる。
、ジューダスに何もされてないわよね!?」
「おい」
「あはは…大丈夫だよリアラ」
平気だから降りてこようとしないで下さい。
「カイル、リアラ。それとロニ。今から言う事をやってくれないか?」
「なに?
「つか俺はついでかよ…!」
ロニの泣き言はさっくりと無視してが続ける。
「さっきので船底に穴が開いたんだ。全部の船室回って乗客を甲板に避難させてくれ!」
達はどうするのっ?」
「僕達もすぐに行く。お前達は先に行け!」
「わ、わかった!」
パタパタと足音が遠ざかっていく。それを聞き、さて俺等も昇るかとが呟いた後、が口を開いた。
「ねえ、穴が開いてるのはここだけかな」
「多分な…それがどうかしたか?」
「んー…うん。ここだけなら何とかなるかもな。と」
とりあえず先に梯子を昇ってと言われ、訝しく思いながらも2人が上に昇る。はというと梯子の途中にいる。 意図が判ったが仕方ねえなぁと苦笑しながら、先に行ってるぞと声をかけた。
、どうするつもりなんですか?』
シャルの声が介入する。おそらくジューダスも同じなのだろう。
「とりあえず穴を塞がないと。セドゥ、できる?」
『マスターが望むのならね』
「じゃあ、始めるよ」
の手に青白い光が灯った。
「空気の膜をつくろう」
「出来るのか?」
「多分ね。どちらにせよ、応急処置はしとかなきゃ」
リアラが力を使えば船は浮かび、海水は穴から流れ出すはず。
「港に着くまで持てば、それでいい、かな」
ピシッと音がし、海水が見えない膜によって阻まれる。
「これでよしっと」





とジューダスが遅れて甲板に出ると、既に乗客は避難させられていた。 くるりと見回しカイル達を探すとすぐに見つかった。あちらも気付いたようで、こちらに駆け寄って来る。
「みんな甲板に避難したよ」
「そっか。…これからどうしようね」
岸まではまだかなりの距離がある。セドゥの力で沈みはしないがどこまで持つか。 じわりとの手に汗がうかぶ。長時間の状態維持は酷く精神力を使うのである。
表情に出ないように気をつけながら掌に爪を強くたてた。
「泳いで渡れば…」
「それは無理。女性や子供達はそこまでもたないし、救命ボートも数があるからな」
ぱたぱたとが手をふる。じゃあどうすれば…とカイルが呟くとジューダスが口を開いた。
「全員が助かる方法が一つだけある」
「ほ、ほんとに!?」
「力を使え、リアラ」
びくりとリアラは身を震わせ、かぶりをふる。
「無理よ…わたしには。力が足りないもの…」
どこか悔しそうにリアラが俯く。
「じゃあこのまま沈んでもいいと?」
「そうじゃない!そうじゃないけど…」
「リアラ、」
…?」
場違いに柔らかく微笑むにリアラは戸惑う。
「リアラ、初めて会った時に私が言ったこと、覚えてる?」
「…『可能性を自ら否定するのは駄目』って……」
うん。とリアラの言葉に頷く。
「出来るよ、リアラなら」
「……っ。わたしが、皆を…お願い…とんで!」
リアラの言葉に呼応するように胸のペンダントから眩い光が溢れ出す。その光の本流は船を覆い、次の瞬間ふわりと浮び上がった。
「おい、リアラは一体何をするつもりだ?」
「船を浮かせるつもりなんだ。だが、今のリアラに出来るかどうか」
「や、やっぱり、ダメ……っ」
浮かびあった船が突如がくんと傾く。
「あきらめちゃだめだ、リアラ!」
「カ、カイル…」
「リアラなら出来るよ!きっと、出来る!」
カイルの言葉に背を押されるように、もう一度、溢れんばかりの光が放出した。













「リアラ…」
「まあ、あれだけの力を使えば無理もないよ」
船が完全に浮び上がった後、リアラが倒れてしまった為ひとまず空いている部屋に寝かす。
心配そうなカイルの頭を軽く叩きながらロニが続ける。
「とりあえず、船長が話があるって言ってたから行こうぜ」
「だな。あ、は此処で休んでろよ?」
「え、何で。私も行くよ?」
に言われきょとんとした後、反論する
「駄目だ。久しぶりに喚んで大仕事やらかしたんだから休んどけ。一応今も維持してんだろ?」
(…何で分かったんだろう)
確かに馴れないことをして少し疲れているのは事実だが。それでも表情には出さない様にしていたのに。
「……どうしても?」
「どうしても、だ」
「むー。分かったよ、此処で休んでる」
しかたない。とが折れる。それに満足したのか、達は部屋を出ていった。
パタンと扉が閉められた後、ドッと疲れが押し寄せてきた。どうやらかなり力を消耗していたらしい。そのままずるずると意識が落ちていった。
は気付いていたのか」
「んー?何の事だ?」
とぼけるな。とジューダスが言う。
が疲れていた事だ」
「あーまあな。は疲れていると眉間に皺寄せるから」
とんとん。と指で軽く叩く。微かにだからよく見ないと判らないけどな。と苦笑しながらが言う。
「そうか…」
「もしかして、気付いてやれなくて悔しいのか?」
「…」
「おや図星?」
「うるさい」
「皆に心配かけたくなかったんだろうさ。あいつはそんな奴だから」




「あーやっぱし寝てるよ」
船長と話をつけてきた後、扉を開いたが苦笑した。
(だろうとは思ったんだよなぁ)
部屋に置いといて正解だった。と息をついていると強張った声でカイルが声をかけてきた。
「ね、ねえ…」
「どした?カイル」
…息してないんだけど」
「あーそれ…「何ぃ――?!」
いきなり隣で叫ばれた。
「うるさいぞ、ロニ」
ジューダスも俺と同じらしく、顔をしかめている。
「お前等なんでそんなに冷静なんだ!息してないんだぞ!?これはもう人工呼吸しか……!」
ジャキンッ
「…っあのーさん?ジューダスさん?何で武器を突き付けてるんすか…?」
「貴様が馬鹿な事を言うからだ」
「あっはっは。に手を出そうなんざぁ俺が許さん」
明らかに怒気を含ませるジューダスと。これからは(少なくともは)怒らせないようにしようと誓うロニがいたとか。
「まぁ、冗談はおいといて。言っておくが死んでないから。は」
「? どういう事だ?」
「…あいつはどんなときでも寝息一つたてないんだ」
ロニの疑問にジューダスがため息をつきながら応える。…おそらく以前にも同じ様な事があったのだろう。
そういう事だ。とが刀を収めながら苦笑する。
「疲れたんだろうな。だから着くまで寝かせてやってくれないか?」




――――――ゆめを、見ていた気がする
どうやらあれから眠っていたらしい。薄く目を開けたままぼんやりとしていると少し離れたところで空気が揺れた。
ゆっくりと起き上がると隣のベッドにはまだリアラが眠っていた。
「お早うさん。もう少ししたら出発するが平気か?」
「………うん、平気。どの位寝てた?」
「ざっと二時間だな。これからリーネに向かう事になった」
「リーネ……」
ぽつりと呟くとああ。とに頷かれる。
、岸に着いたぞ。……、起きていたのか」
かちゃりとドアが開きジューダスが姿を現す。が起きているのを見、大丈夫なのかと聞かれた。
「私は平気。寝ていてごめんね」
「いや…起きなくてよかった」
「は?」
思わず二人に視線を向けるが、は苦笑しており、ジューダスはといえば微妙な表情で明後日の方向を向いている。
「…私が寝ている間に何かあったの?」
「気にすることじゃない」
「え、いやでも…」 「ま、そうだな。も降りる準備しとけ」
「………はぁ」
釈然といないまま、は頷いた。





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