もう一度、大切な人に会うことが出来るとしたら…貴女はどうしますか?


?」
「え…あ、何?」
「何、じゃないよ。話聞いてた?」
「あはは…。ごめんなさい聞いてませんデシタ」
緩やかな昼下がり、いつもの様に親友の或都と柚聡と共に他愛のない話をしていた。
「今度3人で行こうって言った映画の話」
「あー…あぁうん。そうだった」
ごめんと笑いながら謝ると、まったくもー。と或都が膨れた。
まあまあ、と取り直しながら柚聡が目で大丈夫かと聞いてきたので、平気だよと笑って返す。
、」
「なに?」
「…ううん。なんでもない。気にしないで?」
「? うん」




(そういえばキャッチコピーだったっけ)
二人と別れた後になって思い出す。


『もう一度、大切な人に会うことが出来るとしたら…貴女はどうしますか?』


確か、はなればなれになった恋人達の悲しい話だ。
(…何で"会いたい"と思ったんだろう?)


誰に?


私は、誰に会いたいと思った?


(記憶ないって不便だなぁ)
約一ヶ月間の記憶がすっぽり抜けている。


大切な


何かを


忘れている―――


そんな気がするのに。


「…ハァ」
思いだせないのが酷くもどかしい。
その時、ふっと気配を感じが立ち止まると目の前に数人の中学生らしき男子等が周りを取り囲んだ。
「…どちらさま?」
「あんたがの姉だな?」
「(何やらかしたんだ弟よ)…そうだけどそれが?」
「大人しく俺等と来てもらいたい」
「嫌よ。面倒じゃない」
「あんたに決定権はねぇよ!」
偉そうに言われ、は煩わしそうに相手を見回し、
「そう…さよなら」
ガスッ
「ぐぁっ」
手近な奴を沈めてさっさと走りだした。
「なっ手前待ちやがれ!」
(普通待てとか言われても待たないでしょ)
正論である。
追い掛けてくるのを確認しつつ迷惑をかけないよう人気のない方へと誘導する。
(にしても、本当に何やらかしたのよ馬鹿
恨みでも買ったのだろうか。とそんな事を考えながら角を曲がるとそこは行き止まりだった。
「げ…」
「っぜぇ、ぜえ…やっと追い詰めたぞ」
振り向くといつの間にか中学生の右手には折りたたみ式のナイフが握られていた。ピッと相手がナイフを突き付ける。距離は大体2メートル弱。

どくん
「…!」


既視感


中学生の男子と誰かの姿が重なる。


ドクン


「覚悟は出来てるな…?」


『分かっていないのはお前達の方だ』    そう言う彼の表情はとても辛そうで


ドクン


(……だ、れ…?)


『こんな所にいたのか』    呆れたように、けれど安堵したように


ドクン


『桜を見てたのか?』    風が、花弁を舞わせて


ドクン


『僕だけ預かるのも癪だからな』    本当の名を教えてくれた


ドクン


っ!』    さいごにみた、かれの、のばされた腕―――


「っ!」




カチリ。
どこかで扉の開く音をは聞いた様な気がした。

濁流の様に流れだす彼等と過ごした記憶の数々。
消える私に手を差し延べた彼。音にならない声が彼の名を紡ぐ。


「   」


全てを


思い出した。


「おい、聞いてんのか?」
微動だにしないにキレたのか一歩近付く。
「おい!」
「……でかい声で言うな頭に響く」
「んだと手前!」
静かな言葉に彼等が熱り立つ。それを気にも止めずは淡々と言葉を紡ぐ。
「人が感傷に浸ってるときに大声で喚くな。……いっておくけど私、今腹立ててるんだから自分自身に。」
ぱさりと肩まで伸びた髪を払い彼等を睨み付ける。


なんで忘れていたのだろう。


あのあとも、覚えている。


私は、馬鹿だ。忘れたくないのに、無意識に扉を閉めていた。


何より自分自身に腹が立つ。コレは八つ当たりだ。

「覚悟しておけば?」












コツ、コツと静謐な空間に足音が響く。


彼は歩む。白い空間の最奥へ。


コツ


「―――リカフィード」
「戻ったか…。それで、経過は?」
漆黒の衣を纏ったリカフィードと呼ばれた女性がゆっくりと青年の方を振り向く。
「…゛゛の記憶が戻った」
「…そうか。やはりな」
「驚かないのか?」
「これでもあの子の事は知っているつもりだよ。」
お前だってそうだろう?
そう問い掛けられ、やはり敵わないなと彼は苦笑する。
「それで?俺に用があったから此処に喚び出したんだろ?」
「ああ。依頼だよ。…旧友からのな」

ひらり、と片手を翻し光を生み出す。淡く翠色の光の中から一振りの刀が現れた。

「それ…」
「元々、お前の物だったろう。」
渡された刀を手にとれば懐かしい質感に思わず目を細める。また、これを手に取る日がこようとは思わなかった。
「久しぶりだな、鬼仙。また俺を選んでくれて感謝してる」
「あの子を頼むよ」
「りょーかい」