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早朝の朝靄の中、パタンと小さくドアが閉まる。
家を見上げ、目を伏せる。

お父さん、お母さん、藤樹。

或都、柚聡。ごめんね。何も言わないことを。

けれど、私は――


「…いってきます」


紀伊奈の家に行くと、穏やかな表情で紀伊奈が迎えてくれた。
「おはよう、流依。―――どうしたいか、決まった?」
こくりと頷き、言葉を紡ぐ。
「私は行きたい。紀伊従姉さん、行かせて、ください…!」

その言葉に紀伊奈はこっそりと微笑む。あれほどまで幼かった従妹がここまで成長するとは。
やっぱり、君の妹だね。   そう思わない?

「本当にいいのね?」
もう一度、こくりと頷くと紀伊奈は流依を奥の部屋に案内した。
「紀伊従姉さん、こっちって書庫じゃあ…」
「忘れてない?私の家なんだよ?」
「…まさか」
そのまさか。とくすくす笑って仕掛けを作動させると本棚が動き、人一人分通れる空間が現れた。
「………」
「さあ、行きましょうか」




カツンカツン-と空間に音が反響する。どんな造りか知らないが一面真っ白だった 。ふと、エクスフィトと出会った場所もこんな感じだったと思い出す。

「紀伊従姉さん、何処へ向かってるの?」
「今回の依頼ね、実はもう一人流依と共に行く事になってるの。」
だからその紹介なのだと話しながら歩く紀伊奈。
「…どんな人?」
「それは…あぁ。会えば分かるよ」
「そーゆう事」
不意に男性の声が聞こえ、流依が驚いているとカツン、と紀伊奈が立ち止まった。
「紀伊奈。彼女がエクスフィトの選んだ?」
「そう。……どうでもいいけど姿を見せなさい、ルトー」
呆れた様に息をつく紀伊奈に、すまんと苦笑しながらルトーと呼ばれた人物が奥から現れた。

年齢は20代前半位だろうか。彼は長い薄茶の髪を首の後ろで結わえており、黒に近い茶の瞳が前髪から見え隠れしていた。
「驚かしてすまなかったな。俺はルトー・グレランス。紀伊奈の部下をやってる」
「紀伊従姉さんの…?」
「うんそう。うちの部下は無茶ばかりするから私は大変なの」
「よく言う。職権乱用しまくるくせに」
「それはそれ。これはこれ。よ」
「あのなぁ…」
「それはそうと。ルトー、この子が流依よ」
急に話を向けられて慌ててはじめまして。と挨拶する。
「よろしくな。君の事は紀伊奈から耳にタコができる程よく聞いてる」
「…何言ったのよ従姉さん……」
「んー?秘密。」
クスクスと笑って紀伊奈がはぐらかす。あんたも重度のシスコンだよなぁと呟くルトーの声が聞こえた。

「まぁ話はこれくらいにしておいて。
――今度の依頼、ルトー・グレランス、及び三夢流依の両名に一任します。」
紀伊奈の涼やかな声が空間に溶ける。
「期間は任が終了するまで。事の詳細はルトーから説明を受けてね。

 では―――この軌跡が貴女達を祝福する事を願って」

紀伊奈が淡く微笑むと、二人の立つ床が光り始め、ふわり。と何処からともなく柔らかな風が流依達を取り巻いた。
「いってらっしゃい、二人共」
「紀伊従姉さん…」
ルトー、流依の事よろしくね」
「りょーかい。んじゃ、行ってくる」
「、紀伊従姉さんっ。行ってきます!」

空間に光が溢れる。

一瞬後、二人の姿は見えなくなった。





願いなさい。強く強く、


そうすれば、必ず道は開けるから。


「二人に加護があらんことを」